雪踏む侵攻
投稿者:すだれ (27)
「うわっ!?」
そこまで考えた時、そして雪を踏みしめる音が背中まで迫った時、ふいに身体が浮いた。
というより友人に無理やり立たされ小脇に抱えられていた。
「なッ…何を…!?」
「袋持て!落とすなよ!!」
そのまま走り出した友人から押し付けられた買い物袋を慌てて抱きかかえるが、袋は此方の身体ごとガサガサと揺れる。
炭酸入りの酒を買ってなくてよかったとぼんやり過ったが、ほぼ現実逃避に近く状況はいまいち掴めなかった。
「ちょ…おい、何が、」
「喋ってると舌噛むぞ!」
「せめて降ろせ…!」
「お前じゃこの雪道走れねぇだろ!!」
今自分たちは走らなければならない状況なのか。
友人は人一人抱えてあの滑りやすい雪道を走っているとは思えないほどの足取りで帰路を一目散に駆けている。
無性に背後を見たくなったが、小脇に抱えられた体勢では振り返ることはできなかった。
アパートに着いた友人は、玄関の鍵を開けるとほぼ放り込むように此方と買い物袋を投げた。
文句は言えなかった。振り向いて見えた友人の顔が、全力疾走した後とは思えないほど血が通っていないような青色だったので。
「…ごめん」
「…君が謝ることではないのではないか?」
「うん…だけど…ごめん」
友人はコンビニを出た直後から背後の気配に気づいていたのだという。ちょうど買い忘れを思い出したと言葉を切って立ち止まったあの時だ。
「声が聞こえる時あるって言ったじゃん…アイツらの声ってノイズが乗って聞こえてくるから、生身の人間の声と判別できるんだけど…」
友人の耳にはザクリと雪を踏みしめる音より先に、ノイズ混じりの声が聞こえていた。
「唸り声みたいな…呻き声みたいな…しゃがれた爺さんかオッサンっぽい声質…だと思う。やっぱり何言ってるかはわかんなかったけど」
友人は雪道に足を取られる此方の腕を掴み歩を進めた。
なるべく背後の声から距離を取るように。
背後に向かう意識を隠すように他愛のない話を振っていたのは此方だけではなかった。
「お前が立ち止まってしゃがんだ時後ろを向いて、姿を見た。半透明の、武者みたいな影が一歩ずつ近付いてきてた。…お前のすぐ後ろまで来てたんだぞ」
足音は立ち止まった。しかしノイズ混じりの声は止まなかった。
次の瞬間、
「妙にハッキリ、『チャキ』って音が聞こえた。それ聞いてすぐお前抱えて逃げた。『あ、この音腰の刀に手をかけた音だ』って気づいたから」
「…此方には雪を踏みながら歩く足音しか聞こえていなかった。だから通行人だと思って抜かせようと…」
「とんでもねぇのが迫ってたよ」
kamaです。うまいですねぇ。文章の組み立て方とか。好きです。