シンクロしていない……
投稿者:take (96)
知人のA子さんに聞いた話です。
彼女が高校生のとき、両親が田舎へ泊まりがけで出かけなければならない用事ができて、
ひと晩家を空けたことがありました。
ちょうど夏休みだし、いくら夜更かししようが叱られないし、羽根を伸ばして、のびのび過ごせるぞと思いました。
晩ご飯はピザとジュースで済ませ、リビングで寝転がって、お菓子を食べながら夜遅くまでテレビを観ていました。
すると、2階から当時中学生の弟が降りてきて、リビングを横切り、キッチンの冷蔵庫からジュースを出して、また2階へと上がっていくのを、視界の端でとらえました。
弟も夜更かしをして、漫画を読んだり、ゲームで遊んだりしているのでしょう。
A子さんは、たいして気に留めず、テレビを観続けていたのですが、しばらくすると、とんとんとん、と階段を降りる音が聞こえてきました。
また弟が降りてきたのかな、と思っていると、リビングをすたすたと横切る足音、冷蔵庫を開ける音、中から物を取り出す音、冷蔵庫を閉める音、またリビングを横切って、階段を上がっていく足音を聞いたのです。
「え……?」
その二度目は弟の姿はありませんでした。
音だけがA子さんの目の前を通り過ぎていったのです。
彼女は、いま起きた出来事を、どう理解すればいいのかわからず、しばらく固まっていましたが、そういえばと思い返しました。
一度目、弟が降りてきたとき、足音は聞こえていたっけ? 冷蔵庫を開けたり閉めたりする音がしていたっけ? 階段を上がっていく足音はしていたっけ?
……いや、無音だったような気がする。
見ている光景と聞こえている物音がズレている……?
すると、また2階から階段を降りる足音が聞こえてきたのです。
ギクリとして、A子さんは息を詰めて体を固くしました。
すると、弟がリビングを横切ってキッチンに行き、冷蔵庫を開けたのです。
今度はきちんと姿が見え、音を立てながら、ジュースを取り出し、またリビングを横切っていきます。
「なに、どうかした?」
A子さんが、あまりにもまじまじと見つめているので、怪訝に思ったらしい弟が立ち止まって聞いてきました。
「う、ううん……ねえ、さっき降りてこなかったよね?」
「え? いや、いまが初めてだけど」
「そ、そう……ならいいんだ、ごめん」
自分は、いま引き攣った笑顔を浮かべてるんだろうなと思いつつ、なんでもないよと手を振りました。
弟は、そんな姉に首を傾げながら、2階へと上がっていったのでした。
A子さんの身の回りでは、数年に一度くらいの割合で、こういう不可思議な事が起きるのだそうです。
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