H歯科医院
投稿者:ねこじろう (147)
そして玄関横にある自転車にまたがると、自宅前の狭い路地を一気に走り出した。
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自転車でおよそ5分ほどのちょうど住宅街を抜けたところにある林の辺りに、やはりその医院はあった。
石造りの門柱には「日蔭歯科医院」という古ぼけた看板が掲げてある。
見上げるとモダンとはとても言い難い三角屋根の古びた建物の白壁は薄汚れていて、あちこち蔦が走っている。
入口に続くエントランスは腰高くらいの雑草に覆われていた。
とてもここで医院が営業しているような感じはしない。
佐伯は門柱の傍らに自転車を停めると、進路を邪魔する雑草を払いながら歩き進み、年季の入った入口ドアの前に立つ。
ドアには記憶のとおり「年中無休」という札がぶら下がっていた。
ギギ、、、
軋む音を響かせながらドアを開き院内に入ると、上リ口にはビニールのスリッパが3つ並んでいて、リノリウムの床の先に受付カウンターがあった。
カウンターの向こうには、ナースキャップを被る白衣の看護師が座っている。
マスクをしているので表情はうかがいしれない。
スリッパに履き替え看護師の前まで歩き「あの、昨晩から虫歯が痛くて」と片頬を押さえながら言うと、看護師はいきなり「では、どうぞ」と言った。
─え?初診なのに保険証の確認とかないのかな、、
と戸惑いながらふと後方の待合室を振り向くと、長椅子には誰も座っていない。患者は佐伯一人のようだ。
受付カウンターに沿って奥に廊下があり、どうやら診察室に続いているようだ
彼は薄暗い廊下を真っ直ぐ進み、突き当たりのドアを開く。
8帖ほどの室内の中央辺りには、治療用の黒いリクライニングシートが2つ並んでいた。
佐伯が右側のシートに座っていると、いつの間にか白衣姿の医師が傍らに立っている。
ただこの人もマスクをしてるので顔は分からない。
「どうされました?」
医師が低い声で尋ねる。
「あの、昨晩から奥歯が痛んで」
と言うと医師は彼の顔にライトをあててから、
「では口を大きく開けてください」
と言う。
佐伯はライトの眩しさに目を閉じると、言われたとおりに大きく口を開いた。
医師はしばらく彼の口内をミラーで見ていたが、やがてまた直立姿勢になり、あっさりこう言った。
「抜きましょう」
kamaです。とても楽しく拝見させていただきました。
文章うまいですね。小説読んでるみたいでした。
ラストのオチは別の落ち方もつけられそうですが、おもしろかったです。
なんならこの家族シリーズをまた読みたいです。
ヤバ医者ですね。気をつけましょう。
怖いですね。残留思念のようなものでしょうか?