H歯科医院
投稿者:ねこじろう (147)
佐伯は虫歯による耐え難い痛みで一睡も出来ず、最悪な朝を迎えた。
横に寝ていた妻の未奈もさすがに気付いていたようで、ベッドの端に片頬を押さえて座る彼に、
「ねえ、大丈夫?」と肩越しから心配げに語りかける。
「左の奥歯が凄く疼く。今から病院行ってくる」
と言って彼はベッドを降りると、クローゼットの前でさっさと外出着に着替え始めた。
その間もズキズキと奥歯が痛んでいる。
すると、
「今日は日曜日だけど」
背後から未奈のあっけらかんとした声がした。
最後の上着を取ろうとした佐伯の手がピタリと止まる。
そして振り向き、今にも泣きそうな顔で妻の顔を見た。
すると彼女は無言で携帯を手に取ると素早く操作し、
「休日診療してる歯科医院は隣県にあるみたい。でもここからだったら車で2時間はかかると思う」と無慈悲なことを言う。
「2時間!?」
佐伯はそう言ってガックリ床に座り込むと、頭を抱えた。
─2時間だって?、、、
そんな長い時間この痛みに耐えられるはずないじゃないか確か歯科医院というのはコンビニの数より多いとどこかで聞いたことがあるが、どこか他にないのか?
もっと近くに、、、
痛みに耐えながら必死に考えを巡らす佐伯の脳裏に、突然とある歯科医院のエントランスの風景が浮かんだ。
─そうだ!
確かこの住宅街の外れに小さな歯科医院があったはずだ。以前散歩していて前を通りかかった時、入口ドアに年中無休という看板がぶら下がっていて、へえ年中無休の歯医者もあるんだと感心していたことを覚えている。
あそこだったら、ここから歩いても10分ほどのはず!
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佐伯夫婦が郊外の山あいにある住宅街の一軒家に引っ越してきたのは、ちょうど3ヶ月前のこと。
この住宅街は昭和の終わり頃に山を削って計画的に造成されたものだから、住宅街を抜けた辺りにはあちこち林や竹藪、沼とかが点在している。
越してきて当初、佐伯は休みの日になるとよく住宅街周辺を散歩していたのだ。
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彼は勢いよく立ち上がると、妻に「歯医者行ってくるわ」と言うと真っ直ぐ歩き寝室のドアを開けた。
「ちょっと、いったい、、、」
背後から叫ぶ妻の声を振り切り、佐伯はサンダルを引っ掛けて外に飛び出す。
kamaです。とても楽しく拝見させていただきました。
文章うまいですね。小説読んでるみたいでした。
ラストのオチは別の落ち方もつけられそうですが、おもしろかったです。
なんならこの家族シリーズをまた読みたいです。
ヤバ医者ですね。気をつけましょう。
怖いですね。残留思念のようなものでしょうか?