視える恋人
投稿者:ぴ (414)
20代前半の頃に、私には5か月だけお付き合いした恋人がいました。
コンビニでバイトをしていた彼に私が一目惚れし、かなり強引に私のほうから猛アプローチしたのがお付き合いするきっかけです。
あの頃は本当に惚れっぽく、後先考えないで行動する行動力を持っていました。
私の猛アプローチに彼は最初は見るからに嫌がっていたものの、あまりに押しの強い私に負けたという感じで、仕方なさそうに付き合ってくれました。
私はどんな理由でも付き合ってくれたので、大喜び。
彼女面して、ちょくちょく彼の家に行って、ご飯を作るようになっていました。
彼は私と正反対の静かな人で、落ち着いていて実年齢よりも大人びた人でした。
そういうクールなところもまた好きで、感情を全部表に出してしまう私とは正反対のタイプでした。
私の直情的なところはいつも家族や友達に注意されるのですが、彼は私のそういうところは嫌いじゃなかったと思います。
思ったことを全部顔や口に出してしまう私に彼はいつも笑ってくれました。
「素直なところはいいよね」と実際に口に出して褒めてくれたこともあります。
なんだかんだ話が合うなと居心地の良さを感じていました。
クールであまり感情を出さないところ以外は彼は普通の人でした。
コミュニケーションが下手というわけでもなかったし、仕事ができないこともなかったと思います。
だけど彼にはちょっと不思議なところがありました。
それはたまに何もないところをじっと見ていたり、誰もいないところで独り言をいうところなのです。
最初はちょっと変わっている人と思っていたけど、それにしては頻繁にこんなことがありました。
まるで私には視えない何かが視えているような行動をするのです。
気づいてからはよく彼のことを観察するようになりました。
ある日、二人で近くのスーパーで買い物をしているとき、途中まで彼と話していたのに、急に彼が黙りこんだことがありました。
おかしいなと思って顔をあげると、彼の視線は食品売り場の一角で止まっていました。
あまりにじっと見ているので、私はつい口が滑って、「何かいるの?」と声をかけたのです。
まさかそんな言葉をかけられるとは思っていなかったのでしょう。
彼はぎょっとした顔で、こっちを見ました。
買い物の帰り道の車の中で、私はもう一度聞きました。
「さっき、何見てたの?」と問いかけると、少し悩むような仕草をして「何って?」と聞き返しました。
だから私は「視えるんでしょ?」って聞いてみたのです。
彼は驚いたように「え、さきも視えた?」って聞いてきたのでした。
残念ながら私にはそのような特殊能力はありません。
だから素直に「視えないけど」と言ったのです。
夏目友人帳の夏目くんみたいな彼ですね