視える恋人

あからさまに彼はがっかりしていて、その後あまり話をしてくれませんでした。

けれどその言葉で、やっぱり彼が何かが視えていることを知ったのです。

私にバレたのに関わらず、彼は私にそのことを自分からは打ち明けてくれませんでした。

ただ彼をよく観察していたら、いつもはポーカーフェイスなくせに、たまに何かに驚いていたり、何かに怯えているような顔をすることがあることに気づきました。

視える彼はかなり日常的に視えているのか、常に物音には敏感だったし、何もない道で「早く行こう」と私を急かしてくるときがありました。

そういうときはそこに何かいるんだろうと思うようになりました。

そんな日が続いていたときに、彼が急に私を見て驚愕の表情をしたことがあったのです。

あまりに怖い顔なので、「え、何？」と私は聞きました。

そしたら彼に「最近、変なとこ行った？」と聞かれたのです。

まったく身に覚えがなかったけど、彼の反応や表情から変なものに憑かれているのかと勘づきました。

だから「お祓いとか行ったほうがいい？」と聞いたのです。

彼は「いや、それくらいじゃ無理」と私に言って、顔色が悪かったです。

それから彼があまり私に会ってくれなくなりました。

同時に肩が異常に重くなって、少し動くだけで疲れるような体調の悪さもありました。

私はその状況がかなり怖かったです。

だって視える彼が視えない私に匙を投げたように見えました。

彼は何も言ってくれなかったので分からなかったけど、何やらやばいのが近くにいるのはひしひしと感じていました。

そうこうしている内に、私の周囲に不幸が起こることが増えてきたのです。

父が腰を悪くしたり、母が高熱で寝込んだり、兄弟が骨折したりと悪いことが続きました。

絶対に私のせいだと確信しました。

あまりに怖いので、恋人に電話したけど、恋人は電話に出てくれません。

一時は完全に見捨てられたと思って、かなり孤独な気分になりました。

ただ視えるからって何かができるとは限りません。

彼の危険も考えたら、見捨てられても仕方ないかなとは思いました。

しかし、そうやって落ち込んでいたある日に、急に彼から連絡があり、「今から家に行ってもいい？」と聞かれたのでした。

私は最近周囲で悪いことが頻繁に起こるので、やめたほうがいいかもと言ったのです。

それでも彼が行きたいというので、了承しました。

久々に会った恋人は私を見るなり、すぐに「これを持って」と言いました。

多分それは何か文字が書いた紙だったと思うのです。

読めないぐちゃぐちゃな文字で私には何が書いてあるかは分かりませんでした。