人気のないラーメン屋さん
投稿者:ぴ (414)
私はその日急いで仕事を済ませて、待ち合わせの場所に向かっていました。
その日は恋人の誕生日で、大慌てで向かったのです。
しかし、あまりに待たされた恋人は既に帰った後でした。
とぼとぼと来た道を帰る途中で、見たことないラーメン屋を見つけたのでした。
この辺は来たことがあったのですが、このラーメン屋を見たのは初めてです。
人気のないラーメン屋のようでお客さんは他にいないようでした。
でも私は店から漏れてくるいい匂いに釣られ、そのお店に入りました。
お腹がすいていたので、ラーメンとギョーザとチャーハンの大盛セットを頼みました。
自然にお腹がグーッと鳴り、忙しくてご飯も食べていなかったことを思い出し、泣きそうになりました。
頼んだラーメンは大好物の味噌ラーメン。
食べた瞬間にあまりのおいしさに頬が緩みました。
上司から押し付けられた仕事でくったくたになり、恋人にまで怒らせた悲しい気持ちがこのラーメンですべて洗い流されたくらいに美味しかったです。
なぜ人気がないのか不思議に思うくらいの絶品の味でした。
そこで食べながら店主に今日の愚痴を話しました。
そしたら店主は「大変んだったねぇ」と私を慰めてくれたのです。
その優しさにも胸がいっぱいになって、また来たいと思う店でした。
けれど、帰りにお金を支払おうとしたら、手持ちが足りないことに気づきました。
そんなに高い定食でもないのに、お金が足りなくて情けなくなりました。
しかし、店主は優しい笑顔で言ったのです。
「これも何かの縁だし、次に会うときまでにつけておくから、また会えたらいいね。」と言ってくれました。
私は絶対に明日もその次もその次の次の日もまた来ようと思うくらい優しさが嬉しかったです。
翌日、私は同じようにあの人気のないラーメン屋に行きました。
だけど探しても探しても、あのお店が見つからないのです。
近くの人に聞いてみたけど、「ラーメン屋?」とみんな不思議そうな顔をしてきます。
飲食店自体がそこらへんにはないと言われました。
そんなわけないと探し回ったけど、それから2年経っても私はあのラーメン屋を見つけられません。
調べた結果、数十年ほど前になりますが、そこにラーメン屋があった情報は見つかりました。
だけど、それはもうずっと前の話なのです。
あれから恋人とは仲直りし、職場は転職しました。
もしあの人気のないラーメン屋にもう一度行けるチャンスがあれば、店主にそのことを報告し、あの日つけてもらった食事代を利子をつけてお返ししたいと思っています。
「にんき」がないのか「ひとけ」が無いのか気になる。
一瞬だけ過去に戻ったんですよ。
あったかい気持ちになるお話でした。