草滑りの真下には
投稿者:YoyoYoyoY (52)
短編
2023/01/23
01:52
896view
子供の頃、河川敷の堤防へ草滑りに出かけていました。
プラスチックのソリで草の上を滑るのですが、
スリルがあって楽しいのです。
春の緑は豊かに膨らみ、子供たちの楽しむ声が響き渡っていました。
あるとき、いつも滑っていた一角あたりが妙に気になりました。
「なんかさあ、この辺で滑るのは止めない?」
妹と従姉弟に声を掛けました。
「何で?ちょうど良い斜面なのに?」
2人は不満そうでしたが、私はどうしても譲れなくてそこから50メートルほど
離れた場所で草滑りを再開しました。
それから5年ほど経ち、もう草滑りをする年頃でもなくなりました。
朝食の食パンをかじりながら、朝刊を読んでいたときです。
三面記事の数行に目が止まりました。
(河川敷の一角で、死後5年ほどの女性の白骨死体が見つかる!)
よくよく読んでいくと、それは私たちが草滑りをしていたちょうど真下でした。
「ああ、私たちが初めに滑っていたところだわ」
妹にも声を掛け確認してみました。
「お姉ちゃんが、ここで滑るのを止めようって言った場所だよね」
妹も覚えていました。
「被害者は妊婦さんだって惨いことを。犯人は当時交際していた男だそうよ。
周囲は民家もないし、深夜に訪れて死体を埋めても分からないよねえ」
まさか、ご遺体が埋まっている上を楽しく滑っていたなんて。
この被害女性はどんな気持ちだったのでしょうか。
私は新聞を畳むと堤防の方へ合掌しました。
前のページ
1/1
この話は怖かったですか?
怖いに投票する 5票
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。