2階に上がってはいけない
投稿者:ねこじろう (147)
仏間の座卓で妹とおやつを食べていると、一緒にいたばあちゃんがミカンを剥きながら、亡きじいちゃんの話をしてくれたんだ。
ばあちゃんのご主人つまり祖父は地元では名の通った猟師(マタギ)で、暇さえあれば裏山に分け入りイノシンやカモシカ、ウサギなどの猟に勤しんでいたという。
特に11月を過ぎ寒くなってくると、イノシシ漁が解禁になって朝から鉄砲を担いで山に入っていき、日が暮れる頃になるまで帰って来なかったらしい。
「それでな、これは冬のある日のことなんじゃが、朝から山に出掛けた勘一さん(じいちゃん)は、辺りが真っ暗になった、いつもよりかなり遅い頃になってようやく帰ってきたんじゃ」
その時じいちゃんは父母やばあちゃんを庭先に呼び出し、びっくりするような戦利品を披露してくれたという。
大八車の上に縛られていたのは、一見すると体長3メートルはありそうな、黄金色の体毛に覆われた巨大な雄のイノシシ。
「でもな、それはただのイノシシじゃなかったんじゃ」
ばあちゃんは怯えた目で続けた。
「勘一さんはな、興奮しながら『わしは【山の主】を仕留めたんじゃあ』と何度も繰り返し叫びながら小躍りしとってな、そん時の勘一さんは何かに取り憑かれたような目をしとっての、そら恐ろしかった」
そしてじいちゃんは、【山の主】と自ら呼んでいた大物を仕留めてから数日後の粉雪舞う日、いつも通りイノシン狩りに朝から山に出掛けたきり、そのまま帰って来ることはなかったという。
警察や消防の人とかが大勢で数ヵ月に渡って捜したが、結局じいちゃんが見つかることはなかったらしい。
「そん時村人たちは、勘一さんは【山の主】の祟りにあったんじゃと恐れおののいとったわ」
そこまで話しばあちゃんは口を閉じると、背後にある仏壇の上方に視線をやる。
鴨居には立派な額縁に収まった写真がズラリと並んでいた。
多分、代々の当主の遺影だろう。
その中には、巨大なイノシシの死骸と一緒に映った着物姿のじいちゃんと思われる白黒写真もあった。
その横には絣の着物姿の、白髪で目鼻立ちのはっきりした男性のカラー写真。
父によく似たその風貌から、それは多分じいちゃんだと思った。
全ては、俺や妹がまだこの世にいなかった頃の話だった。
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そして夏休みも終わりかけたある日。
その日は朝から両親は仕事、午後からはばあちゃんが用事で出掛け、広い家には俺と妹の2人きりだった。
いつものように仏間の座卓で夏休みの宿題をしていると、
「ねぇ、ねぇ、兄ちゃん、わたしね、聞いたんだ」と、正面に座った妹が俺の顔を覗き込みながら言う。
「聞いたって何を?」
俺が問うと、妹は険しい顔をしながら「声を」と言った。
「声?」
再び問うと、妹は喋りだした。
「あのね、昨日の夜なんだけどね、わたしオシッコ行きたくてトイレに行ったの。
それでねお部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、泣き声が聞こえてきたの」
洒落怖のリゾートバイトを思い出しました
子供には,正直言わなと後々後悔すんのは、親御さんだぜ