2階に上がってはいけない
投稿者:ねこじろう (149)
2階に上がってはいけなかった。
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俺が高校まで住んでいた父の実家は兵庫県北部の山あいの小さな集落にあり、昭和の始め頃から代々農業を生業にしていたんだ。
一番近いスーパーでも100キロ先というとんでもない過疎部落で、昼間でさえも通りを歩いている人を見つけるのが困難なところだったな。
家は昔ながらの2階建日本式家屋で、庭も広くて立派だったよ。
これから話すのは、嘗てそんなド田舎で暮らしていた俺が、中3だった頃体験した恐ろしくて不思議な話だ。
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その頃の家族構成は、両親、祖母、俺、そして8歳の妹。
当時は両親とも毎日朝から晩まで仕事を忙しくしてて、どちらかというと俺と妹は放ったらかしで育てられていたのだが、一つだけ厳しく言われていたことがあったんだ。
それが「2階に上がってはいけない」ということ。
幼い頃からずっとそう言われ続けていた。
俺も妹も幾度となくその理由を父や母に尋ねたことがあったのだが、いつも適当に受け流されるだけだったな。
1階には家族4人が暮らしていくには十分過ぎるくらい部屋数はあったから、普段の生活で困るということなどはなかったのだけどね、、、
2階に通じる階段は広い玄関口から上がってすぐ右手、便所の横にあった。
階段上リ口には短冊の魔除け札が一杯ぶら下がった荒縄が走らせてあり行く手を拒んでいて、おまけに一段目の両端には盛り塩までされており、子供心に何だか怖くて登る気にはなれなかったな。
そんなわけで俺も妹もまた両親も、普段の生活で2階に上がることはなかった。
ただ祖母だけは例外だったんだ。
というのは1日に数回、祖母は2階に上がっていたんだ。
そしてそれは食事の前が多かったと思う。
うちの場合晩御飯は午後8時くらいからだったのだけど、その10分くらい前になると祖母は「さあ、そろそろじゃな」と呟きおもむろに立ち上がる。
朱塗りのお盆にその日の晩御飯を乗せると黒光りする廊下を真っ直ぐ歩くと、奥まったところにある階段をヨイショヨイショと登り2階に消えていった。
ばあちゃんには、御札の付いた綱も盛り塩も何の効力もなかったようなんだ。
そして両親もそれに対して咎めたりすることはなかった。
この事を何度となく母に尋ねたことがあった。
ねぇ、どうして、ばあちゃんは2階に上がっていいの?
2階に誰かいるの?
何しに行ってるの?
俺の真剣な問いかけに母はただ気まずそうに笑うだけで、一度たりともきちんとした返事らしい返事をすることはなかった。
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それは世話しなく蝉の鳴く、夏休みのある日の午後だったと思う。
洒落怖のリゾートバイトを思い出しました
子供には,正直言わなと後々後悔すんのは、親御さんだぜ