僧伽(サンガ)
投稿者:四川獅門 (33)
紀子さんは新一君の腕を引き、その場を後にした。
アパートに着いた紀子さんは、新一君に約束をさせた。
「もう二度とユキちゃんと遊ばないでね。分かった?」
「はい」
「それと、道端にある飲み物や、お菓子。絶対に食べたらダメ」
厳しい口調で叱りつけた。
「ユキちゃんって、茶色の服を着てた?」
紀子さんが聞く。
「うん。ママが来るまで一緒にいた」
女の子、虐待、自殺、そしてミヤノ ユキ。紀子さんの中で点と点が線で繋がっていく。
得体の知れない存在が、息子に近づいているのを確信した。
紀子さんは、苦渋の決断で実家に電話をかけようとした、その時だった。
ピンポーン
チャイムが鳴った。
紀子さんが恐る恐るドアを開けると、そこには紀子さんの両親が立っていた。父親は袈裟を着ていた。
「父さん、母さん、どうして……」
驚いた紀子さんが聞いた。
「母さんが、お前の声を聞いてな」
紀子さんの両親の話によると、その日紀子さんの母が夕食の支度をしていると、紀子さんの声で「母さん」と呼ばれた。
その瞬間、台所の勝手口がバン!と音を立てて開け放たれた。
不吉な予感がした紀子さんの母は、紀子さんに何度も電話をしたが繋がらない。
それを住職である紀子さんの父に話し、2人で駆けつけたという事だった。
それを聞いて紀子さんは泣いた。
「馬鹿者!子供の前で泣くんじゃない!」
父に一喝され、紀子さんは子供時代を思い出した。
紀子さんは寺の産まれだった。
幼少期から、見えないモノが見える体質だった紀子さんは苦労した。
周りに気味悪がられる事もしばしばあり、自分の産まれを呪った。
父親の修行めいた厳しい教育にもうんざりして、思春期にはグレてしまった。
七面山ということは日蓮宗か。
私も坊さんやっておるけども(日蓮宗ではない)、こういう話は身の回りで聞くことがある。
この手の話は仏教の教義柄、対外的には公言されないけども、お寺の世界なら、このエピソードは実話でもおかしくないくらい有り得る話。
1番上のコメント主様へ。
お坊さんが、このような話を読まれている事に少し驚きました。お読み頂いてありがとうございます。
七面山が日蓮宗というのも、書いた私自身、知りませんでした。大変勉強になりました。
先日、宗教は違うのですが、加持祈祷に救われました。
神や、仏につかえる方々には感謝や尊敬の意があります。
この場を借りて、お礼申し上げます。
する夫