そして高校を卒業した紀子さんは、家族と縁を切り、元夫の部屋に転がり込んだのだった。
紀子さんは両親に「ミヤノユキ」について話した。
「経を上げに行くぞ。忘れてないだろうな」父が紀子さんに言った。
「うん」
「母さんは新一を頼む」
紀子さんの母親はこくりと頷いた。
紀子さんは父親と2人、踏切へと歩き出す。父親と2人で外を歩くのは、妙な気分だった。
踏切の献花の前に立ち、2人は読経した。
アパートに帰ると、新一君はすやすやと眠っていた。
「新一は、お前以上に見えてるみたいだな。このままじゃ苦労するぞ」
父が言った。
「うん」
「新一を連れて、帰って来たらどうだ?」
紀子さんは急な父の提案に驚いた。
「……考えておく」
紀子さんはそう言って、両親を見送った。
疲れきった紀子さんは新一君の隣で眠りについた。
そして、夢を見た。
夢の中、紀子さんは遮断機が降りた踏切の前に立っていた。警報機がカンカンと鳴る。
踏切の向こう側には女の子が立って泣いている。
紀子さんがお経を唱えると、ゴーっと音を立てて電車が走った。
電車が走り去ると、線路があった場所は川になっていて、河原には沢山の花が咲いていた。
女の子は紀子さんに背を向け、川の向こうへ消えていった。
目が覚めると、紀子さんは泣いていた。隣で寝ている新一君も、涙を流していた。
それ以来、ユキちゃんが現れることは無かった。
20年後、2020年
山梨県 七面山
霊山の中、瀧に打たれる僧がいた。
その名は桐島新一。

























七面山ということは日蓮宗か。
私も坊さんやっておるけども(日蓮宗ではない)、こういう話は身の回りで聞くことがある。
この手の話は仏教の教義柄、対外的には公言されないけども、お寺の世界なら、このエピソードは実話でもおかしくないくらい有り得る話。
1番上のコメント主様へ。
お坊さんが、このような話を読まれている事に少し驚きました。お読み頂いてありがとうございます。
七面山が日蓮宗というのも、書いた私自身、知りませんでした。大変勉強になりました。
先日、宗教は違うのですが、加持祈祷に救われました。
神や、仏につかえる方々には感謝や尊敬の意があります。
この場を借りて、お礼申し上げます。
する夫