僧伽(サンガ)
投稿者:四川獅門 (33)
2000年 場所は伏す
紀子さんは7歳の息子を連れて、新居に引っ越した。古いアパートだったが、この親子にとっては元の家よりずっと良い環境だった。
紀子さんは元夫と交際を始めた頃から、彼が乱暴な性格なのは分かっていた。元夫は喧嘩をすれば暴言を吐き、紀子さんを罵倒する。
それでも、彼は喧嘩が終われば優しくなる。
紀子さんはそんな元夫から離れられなかった。
ある時、紀子さんは彼との間に新しい命を授かった。それと同時に、彼は浮気を重ね始めた。
紀子さんは気付かぬフリをした。彼の他に頼れる人間なんていなかったからだ。
しばらくして、元気な男の子が産まれた。その子を新一と名付けた。元夫は息子に関心が無かったので、紀子さんが付けた名前だった。
新一君が大きくなるにつれて、元夫の暴力もエスカレートした。新一君は日に日に笑わなくなっていった。
ある日、紀子さんは急な残業で帰りが遅くなってしまった。家に着いたのは19時過ぎだった。
「ただいまー!ごめん……残業だったんだ」紀子さんが謝る。
「ごめんじゃねえだろ!!飯買ってねえのかよ!!」
夫は息子を放置し、夕食も摂らずに酒を飲んでいた。新一君は怯えた顔で、奥の部屋で縮こまっている。
すると、夫が詰め寄って来た。
「死ねよ!!約立たずが!!」
夫の拳が頬にめり込む。口の中いっぱいに、血の味がした。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
新一君が泣き叫ぶ。
「うるせえ!お前もぶん殴るぞ!!」
紀子さんは新一君が泣き叫ぶ声を聞き、何かがはじけた。
『この人は夫なんかじゃない!』
口から流れる血を拭いながら、新一君の手を引き、その家から逃げ出した。
2人は夜道を走った。
駅に着いた2人はタクシーに乗り込む。
紀子さんは行き先を告げた。
タクシーが走り出す。
「新ちゃん、もう大丈夫。もう大丈夫だよ。泣かないで」
紀子さんは自分の口をハンカチで抑えながら新一君の頭を撫で、抱き寄せた。
老齢の運転手は何も聞かず、黙って2人を運んでくれた。
七面山ということは日蓮宗か。
私も坊さんやっておるけども(日蓮宗ではない)、こういう話は身の回りで聞くことがある。
この手の話は仏教の教義柄、対外的には公言されないけども、お寺の世界なら、このエピソードは実話でもおかしくないくらい有り得る話。
1番上のコメント主様へ。
お坊さんが、このような話を読まれている事に少し驚きました。お読み頂いてありがとうございます。
七面山が日蓮宗というのも、書いた私自身、知りませんでした。大変勉強になりました。
先日、宗教は違うのですが、加持祈祷に救われました。
神や、仏につかえる方々には感謝や尊敬の意があります。
この場を借りて、お礼申し上げます。
する夫