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心霊

edomondさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

返して
長編 2022/11/28 21:38 2,550view
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Iちゃんのことはすっかり忘れてしまっていました。
あんなに気に入っていたあのマンガも、付録の冊子も、Iちゃんから盗ったあとはなんとなく気がとがめて見返さなくなっていました。
それでも捨てるに捨てられず、目に入るところに置いておくのも気になったので、押し入れに入れておいたのです。
引っ越してきて新しい環境に慣れ、新しい友だちもでき、そして中学校に入り、まわりの環境が変わるなか、いつしかIちゃんのことも「りぼん」と付録のことも記憶の奥底に忘れ去ってしまっていました。
その日そのまま眠れずに朝を迎えた先生は、しばらく考えて、Iちゃんと連絡をとってみることにしました。

当時は学校からクラスメイトの電話番号が記載された名簿が配られていて、先生はそれをお母さんに出してもらいました。
ちょうど夏休み中です。
先生はIちゃんの家に電話をかけてみました。

Iちゃんが出たらなんて言おう、「ひさしぶり、元気?」「手紙書かなくてごめんね」「そっちの中学はどう?」…いろいろと考えましたが、雑誌と付録を返さなかったことを謝るかどうかはまだ決めかねていました。
とにかく夢に出てきたIちゃんの様子が気になって、連絡せずにはいられなかったのです
勇気を出して電話のボタンを押して…呼び出し音が鳴りましたが、誰も出ません。
留守電にもなりません。
「出かけてるのかな…夏休みだし」そうは思いましたが、その後一日中何度かかけ直しても、誰も電話に出ないままです。
夕方がすぎ、もしかするとIちゃんも引っ越してしまったのかもしれないということに思い至り、名簿にあったほかの友だちの家にかけてみることにしました。
その友だちにはすぐにつながりました。
電話をかけるとちょうど友だちが出て、最初はびっくりしていましたが、「引っ越した〇〇だよ、久しぶり~!」と言うと、「久しぶり~」と明るい声を出して、なつかしがってくれたそうです。

しかしすぐに彼女は声をひそめ、「Iちゃんのことだよね…」と言いました。
暗い声を出す友だちにとまどいながら、「Iちゃん、引っ越したの?」と先生が聞くと、友だちはしばらく黙ってしまったそうです。
そうして、Iちゃんがおととい、川に落ちて、溺れて亡くなってしまったことを教えてくれたそうです。
自殺か事故か…友だちから聞かなかったのでわかりませんが、先生はその後いまでも例の雑誌と付録を捨てられずに、また、返すこともできずじまいで、持っているそうです。
先生は、「こういうふうに人の別れはいつあるかわかりません。先生はこのことをずっと後悔しています。あのときに謝ればよかった、正直にIちゃんに話していれば…って。みんなも後悔しないように、毎日を大切に暮らしてください」と話しました。

それを聞いて、先生はIちゃんに、今からでもちゃんと返さないといけないのに…私は思いました。
そして、やっとわかりました。
先生がたまに校庭を眺めているときに、その背中の後ろに、小学生くらいの女の子の姿が見える理由に。
先生は結婚していないし、子どももいないそうなので、誰だろうと思っていたのです。
きっと…あれがIちゃんなんですね。

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コメント(1)
  • 謹んでご冥福をお祈りします。

    2022/11/29/21:33

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