誘いこむ甘水
投稿者:ぴ (414)
長編
2022/11/18
20:13
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そして次第に耳の異常は収まり、声は聞こえなくなりました。
あの日遊んだあの子はどこの誰だったのか今も分からないままです。
あの子の名前が何だったかも、何をして遊んだかも記憶にないのです。
ただあの最後にした約束だけがずっと心に引っかかっています。
「明日また来る」と指切りげんまんで約束して、本当に翌日に遊びに行くつもりでした。
けれど両親やご近所さんが行かせてくれなくて、大人になった今はもうあの森の入り口も小川までの道順も覚えていないのです。
私はあのお寺の石を壊して、あの森に誘われ、少しでも選択を間違ったら戻ってこれなかった気がしています。
そしてあの子は今も私を待っている気がするのです。
もう遠い記憶になりますが、もう一度あの声に誘われたとしたらその誘いに乗ってしまいそうな自分がいて、怖いです。
さまざまな記憶があやふやになっているのですが、それでも一つだけしっかり覚えていることがあります。
今も私はあの小川の水のあまりに甘く美味しい味が忘れられないのです。
あれがもう一度飲めるとしたら…もう戻ってこれなかったとしても誘いに乗ってしまいそうな自分が恐ろしいです。
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