あぜ道の腕
投稿者:ぴ (414)
そういわれて、帰りにアイスを買ってもらったら、見間違いだったかもしれないと私は思いました。
まだ子供だったのもあり、アイスにすっかり心を持っていかれていました。
そんな感じで、私の中であぜ道の腕のことはすっかり忘れてしまったのです。
それから数年経ち、私は中学生になりました。
中学生は自転車通勤になり、あぜ道の近くの道を自転車で家に帰っていました。
でもあるとき、部活で帰りが遅くなってしまい、しかも帰り道の途中で自転車がパンクしてしまったのです。
あまりに不運な自分を嘆きました。
仕方なく、自転車を押しながら帰ってきたら、懐かしい場所が目に入りました。
それは私が子供の時によく遊んでいたあぜ道で、そういえばこの先で腕みたいなものを見つけたことがあったなと思い出したのです。
もう周りは真っ暗な夜だったので、私は思い出したあの感触にぞくぞくとしました。
思い出してしまったのがその記憶だったことを後悔していました。
そしたらあぜ道のところでガサガサと音がしたのです。
私は何の音かとそちらを向きました。
よく見たらあぜ道の草むらが揺れています。
そしてもっと目をよく凝らしてみたら、四つん這いになってあぜ道で何かを探している人がいることが分かりました。
四つん這いになってあぜ道で何かを探す人は、どうやらズボンをはいた男性のようでした。
正義感が人一倍強かった私は何か落としものをした人が困っていると思って、咄嗟に声をかけます。
その男性はびくっというように私の声に反応しました。
そして思わずという感じで、こっちを向いて立ち上がったのです。
私はどうしたんですかと声をかけようとしました。
でもその途中で、声が掠れて途切れてしまいます。
なぜなら立ち上がったその男の人の腕が不自然に途中からないことに気が付いたからです。
その人はひじから下の腕がありませんでした。
私は思わず「ひぃ」っと声が洩れました。
途中からない腕と落ちていた腕がリンクしたからです。
こんな情けない声を上げたのは生まれて初めてってくらいに情けない声だった気がします。
私のあげた声に驚いたように、その男の人は慌ててあぜ道を私がいる方とは反対方向に走って逃げ去りました。
顔はしっかり見えなくてどんな顔だったかは分かりません。
中肉中背の男性でした。
逃げるときは腕がないせいでバランスをうまく取れていない感じで変な走り方でした。
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