あぜ道の腕
投稿者:ぴ (414)
そうして暗闇の中に消えていきました。
帰ってすぐに家族にこの話をしたのです。
父も母もちょっと怖がっていました。
でも私の感じた恐怖はぜんぜんそんなものではなく、その後震えで何も手につかないくらい怖かったです。
あぜ道で何かを探す男はきっと自分の無くなった腕を探していたと思いました。
だって過去に見た腕とちょうど同じあたりから腕がなかったのです。
過去に見間違ったと思ったあの腕ですが、やっぱり間違いなくあぜ道に落ちていたのではないかと思えました。
それからは部活が遅くなったときは、必ず両親に家から車で迎えにきてもらうようになりました。
もう一回あぜ道であの男に遭遇したくなかったからです。
もう一回あんな怖い目に遭ったら怖くて失神してしまいそうなくらい不安でした。
こうして何事も起きないまま日々が過ぎ去って、私は社会人になりました。
都会に憧れが強くて、東京で一人暮らしを始めました。
でもその都会暮らしが相当肌に合わなかったのでしょう。
私は体調を崩して、田舎に帰ってくることになりました。
人生のどん底といえるときだったかもしれないです。
私はその田舎への帰り道に、またあれに遭遇したのでした。
夕方でまだ暗くはないけど、少し薄暗くなっている時間帯でした。
私が駅からとぼとぼ歩いて帰っていると、あのあぜ道に見覚えのある光景がありました。
また草むらが揺れていて、誰か人がいるのが見えました。
そう四つん這いで何かを探すあの男なのです。
しかし、人生のどん底と思っていた私はなぜかそのとき、相手を怖いと思いませんでした。
むしろ必死で何かを探す男が必至で仕事を頑張る自分に重なり、とても哀れに見えました。
私は無言であぜ道に入っていき、すぐにあの腕を見つけたのです。
子供の時に腕を見つけた場所と同じ場所にありました。
だから私はその男の肩を叩き、「向こうにあるよ」と教えてあげました。
善意というよりは同情心からでした。
男はぎょろっとした血走った目でこっちを見て、すぐに自分の腕を拾い上げました。
それを見届けて私はあぜ道から普通の道に戻ろうとしました。
ところが後ろから急に手を引かれたのです。
てっきりその腕のない男がお礼でもいうのかと思いました。
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