タクシーの相乗り
投稿者:ぴ (414)
私は仕事の残業で、終電を逃したことがありました。
残業しても給料が飛ぶわと文句を言いながらもタクシーを拾いました。
そのタクシーに乗るとき、確かに変なにおいがしたのです。
それは線香のにおいのような煙たい匂いでした。
急いでタクシーに乗り込むと、隣に人が乗っていて驚きました。
運転手さんは止まってくれたのですが、既にタクシーの後ろには先客が乗っているのです。
私が慌てて降りようとしたら、その先客が「相乗りでも構いませんよ」と言いました。
はっきり言って私は嫌だったけど、周りに他にタクシーも見当たりません。
運転手さんも何も言わないし、もういいかと思ってそのタクシーに相乗りしたのです。
そもそもタクシーの相乗りなんて初めてで、最初は戸惑いました。
けれど隣のお客さんは特に気にするそぶりもありません。
運転手さんに目的地を伝えるとすぐに発進しました。
そしてしばらくの間、相乗り相手と話をしていたら突然タクシーが見覚えのない場所に止まりました。
私が周辺を見てみると、その近くには墓地みたいなところがあったのです。
なんでこんなとこに止まるのかと、さっきから黙り込んでいる運転手に文句を言いたい気分になりました。
そしたら相乗りしていたお客さんが「あ、もう着いたのね」と言いました。
そして立ち上がると、タクシーをすり抜けてスーッと墓地のほうへと消えていったのです。
私は今起こったことが信じられなくて、目を見開きました。
そして運転手さんに声をかけると、「すいません。ちょっと車が故障したみたいで。ああ、エンジンかかった。」とゆっくり車を発進させました。
まるでさっきのことを見ていなかったように、のほほんと話すのです。
私は「いや、さっきの人」と墓地に消えた人を指さしました。
だけど、タクシーの運転手はまるで何も見ていないかのような様子でした。
後で聞いたら、このタクシーに乗ったのは最初から私一人だったと聞きます。
隣にいたお客さんのことは運転手は認識していなかったみたいです。
ずっと私は一人でぶつぶつと独り言を言っていると思っていたらしく、運転手は声をかけなかったと言います。
つまり私はあの日、墓地に帰る幽霊と話をしていたのだと思います。
今思い出しても恐怖でしかないですが、私はあの墓地の近くを通りかかるたびにタクシーで出会ったその人を思い出します。
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