斎場の斉場
投稿者:ねこじろう (147)
典礼縁スタッフも後に続く。
数分後、今度は典礼縁のマイクロバスが玄関前に到着した。
紫の豪華な袈裟を着た住職を先頭に、喪服姿の遺族達がゾロゾロと歩いてくる。
そして全員が棺の両側に揃ったところで、塩谷は喪主に故人の氏名を確認し、お悔やみの言葉を述べると厳かに話し始めた。
「ええ、これより○○様のご遺体を荼毘に付していきたいと思いますが、もしご遺族の方の中で何か最後のお言葉をお掛けしたい方がおられましたら……」
塩谷の真横に立っていた斉場は、フッと背中に冷たい風を感じた。
思わず後ろを振り向く。
後方の少し離れたところにはベージュ色の大きな壁があり、下にはソファが二つ置かれているのだが、そこに人が二人座っていた。
一人はつば広の黒い帽子を被り、黒い革のコートを着ている。
顔ははっきりとは見えないが、女性のようだ。
もう一人は、白いシャツに黒い半ズボンを履いた男の子だった。
二人ともじっと動かず座っている
─誰だろう?
と斉場は不審に思ったが、次のルーティンに移らないとならなかったから、すぐに前を向いた。
「それでは、お別れでございます」
塩谷の言葉とともに棺の蓋は閉じられ、火葬炉の中へ押し込まれていく。
それと同時に住職の読経が始まった。
火夫の一人が耐火シャッターを閉じ化粧扉を閉じると、扉横にあるスイッチを押す。
これにより制御室で待つ火葬技師に準備完了したことが伝えられ、主燃焼炉に点火がされる。
この後一時間弱、収骨の儀のときまで遺族たちは別室で待つことになる。
斉場は遺族たちを待合室に誘導するとき、もう一度壁の方を見たが、もうそこには誰もいなかった
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帰り際、斉場は火葬技師の古澤と一緒に待合室を清掃していた。
「古澤さん、私今日、炉前ホールで変なものを見たんです」
「変なもの?なんだそりゃ」
古澤が面倒くさそうに応える。
「お別れの儀のときですけど、ホール壁際のソファに変な女性と男の子が二人座っていたんです」
床をいい加減に掃いていた古澤の手がピタリと止まった。
「ど……どんな奴らだったんだ?」
物凄い形相で斉場を睨みつける。
多分?お礼するために現れたとしか思いたい。
母子の幽霊って、最恐ですね。
伽椰子と俊夫くんもそうですが。セットで現れると、こちら側としては、古澤さんのようにビビるしかないですもん。それにしても、どうして古澤さんに付きまとうんでしょうね。単にお礼したいだけなんでしょうか。それとも、何か他に理由があるのでしょうか。