斎場の斉場
投稿者:ねこじろう (147)
翌日、斉場は仕事の内容もろくに調べずにすぐに必要書類を郵送して、三日後に市役所の応接室で面接を受ける。
すると、一週間後に採用通知が届いた。あまりにトントン拍子で決まり、彼は少々拍子抜けした。
「やすらぎの園」は、市内から車で一時間の山あいにある市運営の斎場だ。
十五年前に山を削り作られたその施設は敷地五百坪、建坪が二百坪の中規模の斎場で、職員は十名。
棺の搬送、炉納、収骨、退場までの儀式を行う「火夫」が八名、
火葬炉運転操作、軽微な保守業務を行う「火葬技師」が一名、
事務員が一名、という構成だ。
新人の斉場は、火夫や火葬技師の補助をやっている。
要するに雑用係というわけだ。
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「斉場くん」
遺族のお見送りが終わった後、先輩火夫の塩谷が斉場の背中に声をかけた。
「午後一番から、典礼縁さんの車が到着する予定だ。昼飯が終わり次第、エントランスホールに来てくれ」
塩谷は、今年還暦になるベテラン火夫だ。
髪をオールバックにし黒くごついフレームの眼鏡を掛けており、銀行員のような風体をしている。
性格も外観通り真面目で几帳面。
全てを段取り通りに進める。
「午前中に、古澤くんの失態で少々動揺しているかもしれないが、冷静に対応してほしい」
塩谷が釘を刺す。
古澤は今月から他の施設から転任してきた、五十歳の火葬技師だ。
「火葬技師」というのは、火葬の際、火葬炉の裏手でバナーの調整を行う。
機械の操作自体はそんなに難しくはないのだが、焼け残しなどが無いように、またできるだけお骨の原型が留まるようにしないといけないため、その部分については技術と経験を要する。
古澤は午前中に行った火葬で、五十代の女性の遺体を焼きすぎてしまい、いわゆる「灰化」させてしまったのだ。
それで喪主のご主人が激怒し、古澤は土下座をして謝っていたのだ
半径二㍍に入るとアルコールの匂いがするくらい酒好きな男で、休みの日は朝から晩まで家で飲んでいるらしい。
日頃の言動も危うくて少し朦朧としたところがある。
午後一時ぴったりに、典礼縁の霊柩車は施設正面玄関前に到着した
斉場、塩谷、他数名の火夫が並び出迎える。
喪服姿の典礼縁スタッフたちが車の後部ドアを開くと、台車に乗った棺を降ろした。
すぐに火夫たちは巨大なコインロッカーが並んでいるような炉前ホールに台車を移動する。
多分?お礼するために現れたとしか思いたい。
母子の幽霊って、最恐ですね。
伽椰子と俊夫くんもそうですが。セットで現れると、こちら側としては、古澤さんのようにビビるしかないですもん。それにしても、どうして古澤さんに付きまとうんでしょうね。単にお礼したいだけなんでしょうか。それとも、何か他に理由があるのでしょうか。