斎場の斉場
投稿者:ねこじろう (147)
圧倒されながら斉場が見たとおりに説明すると、なぜか古澤はへたりこむようにソファに腰かけ、訥々と話し始めた。
「去年のことだ。
俺、九州の山ん中にある小さな斎場にいたんだ。
レンガ造りの薄汚いところでな、炉なんか一つしかないんだよ。
働いていたのは俺と、たまに来る地元のじいさんだけだった。
だから炉前業務から火葬炉運転操作、清掃まで、ほとんど全部一人でやっていたんだ。
焼き始めたらレンガの煙突から、どす黒い煙がモクモクと立ち上ってな。
その様がどこか不気味で、なんか薄気味悪いところだった。
忘れもしない、その日は梅雨明けしたというのに朝からひどい雨が降っていて薄暗くて蒸し暑くて、とにかく何か重苦しく憂鬱な日だったな。
予定ではその日は火葬は一件も入ってなくて、午後から炉前や火葬炉の掃除をしていた俺は日が傾く頃には首にかけた手拭いで汗を拭いながら事務所で一人ビール飲んでたんだ。
そしたら、
「ごめんください」
突然玄関の方から女の声が聞こえる。
なんだろうと出ていくと、炉前ホールに女がポツンと立っているんだ。
しかもその足元には小さな棺が一つ、床に置かれていた」
「女?」
「そう、真夏だというのに真っ黒いつば広の帽子に真っ黒いコートを着ていて、顔は俯いていてよく見えなかったが、白粉を塗ったような真っ白な肌に血の色のような口紅をべっとり塗っていた。
『何かご用でしょうか?』って聞くと『今からいいですか?』って言うんだ。
『何をですか?』と尋ねると、
『亡くなった息子を焼いてほしいんです』って言うんだよ。
まあ、どうせ午後からも予定は入ってなかったから引き受けたんだ
そしたら足元の棺を見ながら『お願いします』って言うんだよ。
本当は許可書の確認とかいろいろややこしい手続きがあるんだけど、少し酔っていたせいもあって、すぐ作業に取り掛かった。
俺は早速その棺を台車に乗せると、炉の入口前に運んだ」
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待合室の柱の時計は午後6時を過ぎていた。
窓の外は既に随分暗くなっている
いつの間にか斉場は古澤の隣に座り、話に聞き入っていた。
「『お別れの言葉はいいですか?』と聞くと、『最後に顔だけ見せてください』と言う。
だから俺、棺の小窓を開けてあげたんだ。
多分?お礼するために現れたとしか思いたい。
母子の幽霊って、最恐ですね。
伽椰子と俊夫くんもそうですが。セットで現れると、こちら側としては、古澤さんのようにビビるしかないですもん。それにしても、どうして古澤さんに付きまとうんでしょうね。単にお礼したいだけなんでしょうか。それとも、何か他に理由があるのでしょうか。