どんどこさん
投稿者:ねこじろう (147)
「火の用心で誰か見回りしてるんじゃないか?」
なんとなく思い付いたことを言ってみた。
美沙代は一つ大きなため息をつくとそれきり黙り、向こうを向いた
翌日の午後美沙代は義母を連れて町のスーパーに買い物に出かけ、私と翔大は広い家で二人留守番することになった。
仏壇のある畳部屋の真ん中に枕を敷き私は本を読んでいた。
翔大はしばらく広い家の中を走り回っていたのだが、やがて退屈したのか今度は庭に出て遊び始めた
庭の見える縁側の障子は開け放たれており、そこから春の暖かい陽光が射し込んできていて、私は読みかけた本を傍らに置くとうとうとし始めた。
それからどれくらい経った頃か。
意識の下の暗い深淵からまた、昨晩聞こえたあの奇妙な太鼓の音が聞こえてきた。
─トントン、、トントン、、トントン、、
目を開く。
音は昨晩と違い、どうやらすぐ近くで鳴っているような感じだった
すぐに私は起き上がろうとする。
だがそんな意思とは裏腹に、体は石のように硬直してほとんど動かすことが出来ない。
私は必死に首だけを動かしながら、なんとか音の鳴っている右側を見た。
とたんにゾクリと背筋を冷たい何かが駆け抜けると心臓が激しい拍動を始めて胸の辺りに猛烈な息苦しさを感じだす。
畳部屋の入口の障子は開いており、薄暗い廊下に女が立っいた。
女は黒い修道着姿をしており、その白い顔は異様に大きく頬骨が張っていて、白目のない小さな瞳は暗い洞窟のようだ。
片手で柄のついた小さな太鼓を持ち、もう一方でバチを持ってひたすら叩いている。
─トントン、、トントン、、トントン、、
女は太鼓を叩きながら、ゆっくりと移動し始めた。
それは歩くというより、背筋を伸ばしたまま垂直移動しているという感じだ。
女は固まっている私の頭上を通り過ぎると、息子のいる庭の方に向かう。
─だ、ダメだ、、そっちに行くな
─トントン、、トントン、、トントン、、
懸命に動こうとするのだが、先ほどの右に首を向けた姿勢のままで動くことが出来ない。
私の思いとは裏腹に女は縁側から庭に降り立ったようだ。
しばらくすると翔大の叫び声が聞こえてきた。
「パパー!助けて!パパー!」
─ま、待ってろ、翔大、、今行くからな。
翔大…
なんとも言えない無力感。。
実際直面すると物語みたく思うようにはいかないものだろうけど。