どんどこさん
投稿者:ねこじろう (147)
私たち家族の住む住宅街のちょうど中心辺りに小さな教会があり、翔大はそこに併設したカトリック幼稚園に通っていたのだが、その園長が教会のシスターさんだったのだ。
今もうちの近くでたまにすれ違うのだが、上品に微笑みながら頭を下げてくれる。
黒い修道着姿がどこかエキゾチックで印象的だ。
この「どんどこさん」の話は妻の美沙代も幼い頃聞かされたことがあるようで今も記憶に残っているそうだ。
それは意外にも悲惨な話だった。
なんでも戦後間もない頃、この部落から少し離れた山あいに小さな教会があったらしく、そこには夫婦二人と幼い息子の三人が暮らしていたそうだ。
夫婦は部落に通い溶け込み熱心に布教活動を行い、ようやく部落の中にも信者が何人かできだしたある日、その息子が「神隠し」にあったかのように忽然と姿を消したそうだ。
夫婦は警察とともに長い間息子を必死で探したのだが、結局見つからなかった。
息子を失った夫婦の悲しみは半端ではなかったらしく、特に奥さんは夜になると黒い修道着姿で小さな太鼓を叩きながら息子の名前を叫び部落の中を徘徊していたらしい。
そしてとうとう粉雪の舞う冬のある朝、奥さんは山の奥まったところで木にロープを通して首を吊って死んでいたそうだ。
残されたご主人も悲しみに耐えきれず、後を追うように教会で首を吊って死んだらしい。
それからというもの、しばらくこの部落では数年に一度、幼い子供が消えたそうだ。
村人たちはそれを「どんどこさん」の呪いだと言って、恐れおののいていたという。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その夜、義母の田舎料理に舌鼓をうった私たちは、仏壇のある畳部屋に敷かれた布団で三人並び寝た。
静かだった、、、
時折聞こえてくるのは、風で擦れる枝の音と、名も知らない鳥の声くらいだ。
昼間の疲れもあり、私はすぐに心地よいまどろみの谷底に落ちていった。
どれくらい経ったころだろうか。
右肩に何かが触れるのを感じた。
びくりとして横を見ると、妻の美沙代の不安げな顔がある。
「どうしたんだ?」
尋ねると「ねぇ、何か聞こえない?」と呟く。
私は耳を澄ましてみた。
すると確かに微かだが、何かを叩くような音が聞こえる。
─トントン、、トントン、、トントン、、
それは太鼓の音だった。
しかも大きなものではなく小さなものだ。
規則的に間をとりながら、うち鳴らしている。
─トントン、、トントン、、トントン、、
翔大…
なんとも言えない無力感。。
実際直面すると物語みたく思うようにはいかないものだろうけど。