誘う電子の声
投稿者:すだれ (27)
それは「心霊体験」を問われてその話を切り出した、彼ら彼女らが相手だからこそ。
「重きを置くべきは、君らが体験した事柄を覆りようのない『事実』であると、君らの体験と解釈を否定しないことだ」
「そっか」とだけ呟いた友人の方は向かなかった。
どうせ運転中だ、彼女も此方は見ていないだろうし。
車は線路沿いの国道を悠々と走った。対向車線にも前後にも車は見えず、道を照らすのは乗っている車のライトだけ。
「車のライトまで切れたりしないだろうな…。まったく、こういう現象は車検も通用しない」
「あっはっは!それは無いよ大丈夫!今までもね、命に関わるような誤作動はないの」
…でも、と友人は意味ありげに声を潜めた。
「あなたがちょっとビックリするかも」
「…は?」
どういう意味だ、と問おうとした瞬間、友人の端末から電子音が鳴った。
女性の声で
『ルートを設定しました』
『案内を、開始します』
と。
「ナビゲーション機能か?」
「うん、元から端末に登録されてるヤツだね」
「GPS機能は切ってなかったか?」
「切ってたね」
「ナビは自動で案内を開始するのか?」
「ううん、手動で設定しないと動かないね」
投げかける質問に解が返ってくるたび、言いようのない靄のようなものが胸を占めた。
端末のナビはそんな此方の心境などお構いなしに
『この先、500m先、右方向です』
『この先、300m先、右方向です』
『右方向です』
と道を指示してくる。
『ルートを検索します』
『この先、500m先、右方向です』
『この先、300m先、右方向です』
『右方向です』
『…ルートを検索します』
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