魂の行き場所
投稿者:ねこじろう (147)
一抹の不安を胸に抱きながら恐る恐る声をかけた。
「篠原、寝たのか?」
俺は半身を起こしてそっと額に手を当てる。
ひんやり冷たい。
暖かいものが右の頬をつたい上唇を濡らした。
安らかな死に顔だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺はまず病院に電話をし、それから警察に、そして最後に役所に電話をした。
担架に乗せられて運ばれていく篠原を見送ると、俺は家に帰ることにした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから、一週間が過ぎた。
それは久しぶりに晴れた土曜日の夕刻のこと。
相変わらず無職の俺はスエット姿で、近所にある小さな公園のベンチに座っていた。
夕暮れ特有の柔らかい朱が公園の隅々を染め、今日という日の終わりを告げようとしている。
数人の子供たちが思い思いに遊具や砂場で遊んでいる。
子供というのは、なんと無心で邪気のないものか。
彼らには多分「死」への恐怖などは微塵もなく、ただ瞬間瞬間を懸命に生きているのだろう。
俺はその一人一人を目を細めながらしばらく眺めた後、静かに目を閉じた。
それから、どれくらい経ったころだろう。
「おい、弘志!」
いきなり名前を呼ばれたので驚いて目を開いた。
見ると目の前に真っ赤なトレーナーに半ズボン姿の四歳くらいの男の子が、顔の半分を朱色にしながら満面の笑みを浮かべて立っている。
男の子はその偽りのない無垢な瞳でしばらく俺の顔をじっと見つめていたのだが、やがて一回だけ大きく頷くとダッシュで走り去っていった。
遠ざかる小さな背中をじっと見ていると、なぜだか目頭が熱くなり堪らずまた瞳を閉じた。
【了】
涙してしまいました。
友達の分も生きて下さい。