魂の行き場所
投稿者:ねこじろう (147)
時刻は既に夕刻になっていた。
トタン屋根に雨粒が弾かれる音はますます勢いを増してきており、うるさいくらいになっている。
篠原はたてつけの悪そうな窓の方を見ながら、またしゃべり始めた
「弘志、
俺は今年の二月でちょうど四十になるのだが、この歳になっても未だに恐ろしいものがあるんだ」
「ほう、それは一体何だ?」
俺は篠原の顔を見ながら呟いた
「ふふふ、、、お前笑うなよ。
それは『死』だよ。
俺は物心つく頃から『死』というものが恐ろしくてたまらなかった
死ぬときの苦しみ、死ぬ瞬間、そして何より死んだ後にどうなるのか?
その全てが恐ろしいんだ
恥ずかしい話だが、今もその恐ろしさに眠れないことがある」
篠原の意外な告白に戸惑いながらも俺は答える。
「難しいことは分からないが死んでしまうと脳も活動をストップするのだから、いわゆる意識のない状態が永遠に続くのでは?
つまり部屋の電気を消して真っ暗になったような状態がずっと続くという感じかな」
「永遠にか、、、
ということは、この『俺』という存在は完全にこの世から消えてなくなってしまうとともに意識も永遠に闇の中いうことなのか?」
「まあ、そういうことになるのだが、少なくとも俺の心の中には、ずっと残っていくと思うよ」
「いやだ!そんなことは絶対いやだ!」
突然篠原が語気を強めたので俺は驚く。
「俺は、俺はなあ弘志、、、
三十九年間振り返って良いことなど一つも一つも無かった。
母親からしっかりと抱きしめられたことも、
遊園地のメリーゴーランドに乗ったことも、
誕生日のお祝いやクリスマスのプレゼントをもらったことも、
好きな女性と手を繋いで歩いたり一緒に食事をしたりしたことも、
何一つ無かった。
そんなまま永遠の眠りにつくなんて。
こんな理不尽で不公平なことがあるか!
涙してしまいました。
友達の分も生きて下さい。