ゾンビフィアンセ
投稿者:ねこじろう (147)
私はどちらかというと、寛容な方だと思う。
今、目の前に神妙な顔をして正座している一人娘の「美優」が、多分私よりも年上であっただろう演歌歌手志望の初老の男を連れてきた時も、嫌み一つも言わなかった。
その数年前には金髪を汚ならしく伸ばし放題で黄色いスパッツを履いた中年のロックミュージシャンの時も。
ただ、この男は……。
今美優の隣に正座している、この男は……。
白髪混じりの髪はそれなりに整えてはいるのだが艶がなくバサバサで、目は腐った魚のようで精気というものがない。顔色が病的に悪く頬は痩けている。
紺のジャケットを着ているが、撫で肩で異様に痩せているようだ。
手首を見ると、かなり細く筋張っていて折れそうだ。
年齢は三十代にも四十代にも、いやもしかしたら五十代にも見える
「あの、お仕事は何をされているのですか?」
最初に、この気まずい空気に切り込んだのは隣に座る妻だった。
─そうだ。だいたい、この男は何をしているのだ?
美優に苦労させないくらいの甲斐性はあるのか?
「あの……学さんはね」
なぜだか美優が口を開く。
「お医者さん志望だったの」
「は?医者志望だった?
ということは……」
「今は無職ということ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
美優から電話があったのは昼過ぎのことだった。
思い詰めた様子で会ってもらいたい人がいるということだった。
一人娘の美優は今年四十歳。
これまでも何度となく彼氏と呼ぶ男を連れてきたのだが、いわゆる普通の男だったことがない。
妻子ある男などはまだ良い方だ。
いい年をしているロックミュージシャン。
そして直近は売れない演歌歌手。
……
妻と二人。
和室の座卓の前で正座しながら緊張して待っていると、予定時刻を三十分遅れて二人は入ってきた。
想像したらフイタw
人間死ぬ気に?なれば何でもできるで笑ってしまった。