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呪い・祟り

ふろんさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

食わず山
長編 2022/10/09 08:20 9,191view
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〇〇山から帰ってからは左腕がこんな調子だからしばらく休みをもらって様子を見ることにしたんだ。でも、3日後くらいにはあの人影が夢に出てきた。

…食いてぇなぁ…
…食いてぇなぁ…

…おめぇの腕は美味かったなぁ…
…おめぇの足は肉がいっぱいだな…

そう言って夢に出てきた。夢の中の俺は為す術もなく影達に足を食われたよ。
その次は2週間ほどしてから夢に出てきた。左腕に比べたら足は食いでがあったんだろうな。

…食いてぇなぁ…
…食いてぇなぁ…

…おめぇの腸はコリコリして美味そうだなぁ…
…肝から溢れる血はあったけぇだろうなぁ…

そう言って影たちは俺の腹を貪ってたよ。

「それが2週間前の話さ」
Aはそう言って話を締めくくった。
「じゃあ…」
私がそう言いかけると、いつ夢に出てきてもおかしくないなとAは言った。
「でも、夢の中で食われることは怖くないんだ。むしろ食われている間は食われていることが気持ちいいんだ。もっと食ってくれとさえ思ってる。最近は夢の中だけじゃなくて、起きている時でも早く食いに来てくれないかと思ってる時がある。今こうしてお前と話していても少しそう思っている俺がいる。俺はそれが怖い。俺が俺じゃなくなっている気がして怖い。だから、この話をお前にしたんだ。俺が俺でいるうちに。今日は来てくれてありがとうな」
Aはそう言うと、笑った。私も何とか笑顔を返し、また来るよと病室を去った。

翌日、私は〇〇山へ行き地元の方たちに聞き込みをしてみた。Aが助かる方法が無いものかと思ってのことだったが、結果は徒労に終わった。〇〇山にまつわる歴史のようなものだけは分かった。

〇〇山周辺ではかつて大飢饉があり、止むに止まれずに人肉食をしていた過去があった。それも少々変わったと言うか、陰惨なやり方で。
それは飢饉になりそうな年は、前もって食べると決めた人物を選び、方法は不明だが自ら進んで食べられるように教育、いや、洗脳をしていたらしい。選ばれるのは素直な子どもが多かったそうだ。洗脳の効果もあってか、選ばれた子どもはみんなが苦しんでいる時に自分が救うのだと、どこか名誉も感じていたらしい。
食べられる方は名誉を感じていた。では、食べた方はどうか。

「あんたは腹が減ったからって可愛い子どもを食べたいかい?」
地元の古老がそう語っていたのを忘れられない。
食べた方は精神に異常を来たし狂い死にするものもいたらしい。食べずにはいられない飢餓感と食べたあとの罪悪感。
そんな時代も時が過ぎるにつれ改善されていき、飢えることも少なくなってきたが、〇〇山には人を食べる人の顔をした獣が出るようになった。山の麓の人たちは、かつて人肉食をして狂い死にした人たちが自分は人間ではなくなり獣になってしまったと嘆き、化けて出たのだろうと噂した。
化け物を恐れた人々は高僧にこれを鎮めてくれるよう依頼し、高僧はこれを成しとげた。
高僧はこの山では食べるという行為がかつての人々の魂を苦しめるため、今後は山中での飲食を禁ずると言い、去っていった。
以来、この山では飲食を禁忌とし、地元では『食わず山』と呼ぶようになった。

「それが〇〇山の歴史らしい」
私は私が知り得た話をAに伝えに病室に来ていた。
「すまないけど、どうやったら助かるのかは分からなかったよ」
私がそう言うと、いいんだ、ありがとうと恍惚とした表情でAは言った。
その様子を見た私はじゃあと病室を去った。

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コメント(2)
  • Aさんよく喋るね。

    2022/10/10/06:50
  • 最後の言葉で一気に親近感を感じた

    2022/11/21/21:15

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