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不思議体験

ねこじろうさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

開かずの踏切の向こうは
長編 2022/10/08 15:27 9,807view
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エレベーターの扉が開き、そそくさと彼は乗り込むと、5階ボタンを押す。そしてやれやれと前を向いた瞬間、心臓が止まるくらい驚いた。

いつの間にか長い黒髪で白いスーツ姿の女が、真横に立っている。

─たった今までホールには誰もいなかったはずだ!

チラリとみると、
その横顔は蝋人形のように無機質で、まるで生気というものが感じられない。

扉はゆっくり閉じ、エレベーターが動き始めた。

チーン、、、

チャイム音とともに、金属の扉がゆっくり開いていく。

織田は目の前に広がっていくオフィスの光景を見て、愕然とした。
ちょっとした体育館ほどの室内に

整然と並べられたデスクや事務機器。
いつもなら話し声や電話の音が行き交っているはずなのに、しんとしている。
いくつかのデスクの前に社員の姿があるが、皆何をするわけでもなく、ただボンヤリとして座っている。
スーツの女は先に出ると、すたすたとデスクの間を歩き進み、最後は窓際の席に座る。
織田はエレベーターから降りず、1階のボタンを押すと、再び扉を閉じた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ビルを出た彼は、ふらふらと来た道をたどるように歩き出した。
途中、道の端にだらしなく座り込む浮浪者風の男の汚いヤジを無視しながら、進んで行った。

やがてあの高架下入口が見えてきた。
そしてまた中をくぐり、反対側に出る。

途端に朝の陽光と街の喧騒が彼を襲った。

見上げると、雲一つない晴天が広がっている。
走っていく車、歩道を行き交う人の姿も、いつも通りの光景だ。
試しに携帯の画面を見てみる。

令和4年5月23日月曜日午前8時55分

─え?そんなバカな。
だって朝、踏切待ちで確認した時は8時50分だったはず。
あれから、まだ5分しか経ってないなんて、、、

混乱した頭のままだったが、彼はとにかく会社に向かって走りだした。
今度は踏切も閉じてなかったから、スムーズに商店街を通り、テナントビルのところまで行き着くことが出来た。
エントランスに入ると、右手では受付嬢が微笑み、正面エレベーターホールではスーツ姿の男女がたむろしている。
織田はエレベーターに乗り込むと、5階のボタンを押した。

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