開かずの踏切の向こうは
投稿者:ねこじろう (147)
途端に彼は何とも言えない違和感を感じた。
辺りが通り雨の間際のように薄暗いのだ。
ふと見上げると、さっきまで雲一つなかった晴天の空には、古びた写真のようなセピアカラーの不気味な雲が彼方まで広がっている。
普段は当たり前に視界に入ってくる住宅や古いビルも、どこかドンヨリ重々しく感じられた。
─これは、どういうことなんだ
訳が分からず彼はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、とにかく会社のある方角へと歩きだした。
線路沿いの歩道を西へと歩いている時、織田はまた奇妙なことに気付く。
人がほとんど歩いていないのだ。
朝のこの時間だと、通勤や通学の人たちが多数往き来しているはずの道が閑散としている。
車も走っていない。
まるでゴーストタウンのような辺りの光景だ。
すると前方から、背の高い頭の禿げた老人が近づいてきた。
何やらぶつくさと呟きながら、まるで夢遊病者のように焦点の合わない目でふらふらともたつきながら歩いてくる。
すれ違い様、織田は軽く老人の肩にぶつかった。
「あ、すみません」
慌てて言ったが、その老人は全く気が付いていないかのように、そのまま通りすぎて行った。
その時彼は老人の背中を見ながら何故だろう、かつてどこかで会ったことがあるような気がしていた。
織田は踏切のところにたどり着いたところで立ち止まり、時間を確認しようと内ポケットから携帯を出す。
そして画面を見た途端、衝撃を受けた。
令和00年00月00日00時00分
─なんだこれは?
さっきまでは普通に日時を表示していたのに、、、
軽いめまいを感じながらも、彼は会社に向かって北へと通りを歩きだした。
すると今度は幼い子供連れの女が近づいてくる。
2人とも、とても洋服とは言えないようなボロボロの麻を身に纏い、俯きながら歩いてくる。
すれ違い様、織田は思わず2人に「あの、すみません」と声をかけたが、逃げるように立ち去って行った。
ようやく8階建てのテナントビルに着いた彼は、正面入口自動ドアから入り、エントランスを進む。
右手の受付案内コーナー、正面のエレベーターホール。
始業前の時間ならいつもなら賑やかな場所。
だが今は不思議なことに誰もいない。まるで休日のように静まり返っている。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。