シーバの石
投稿者:ねこじろう (147)
『アレ』が初めて現れたのは、淳慈が1年間の海外での過酷なボランティア活動を終えて、帰国した3日後のことだった。
その日は梅雨もあけたというのに、朝から雨が断続的に降り続いていた。
彼が家庭教師のバイトを終えて木造の安アパートに帰ったとき、既に午後9時を過ぎていた。
雨は一段と勢いを得ていて雨音は部屋の中でも、はっきりと聞こえている。
時差ぼけがまだ直らず、少々体調が思わしくなかったので簡単にシャワーを浴びてから、カップ麺を胃にぶっ込むと早々に寝ようと思い、居間の隣にある6畳の畳部屋に布団を敷いて、バタリと大の字になった。
暗闇の中、安アパートのトタン屋根に当たる雨音だけが小さな畳部屋に響いている。
中々寝付けないでいた淳慈は横を向いて、押し入れの横の窓を何となく見ていた。
すると突然、窓からカメラのフラッシュのような閃光が、部屋の隅々を昼間の光景に変えた。
その時、彼ははっきりと見た。
足下にある押し入れの前に『アレ』が立っているのを。
大きな白いぼろ切れのようなものを頭からスッポリ被った『アレ』は、膝から下だけを出していた。
落雷の音が地響きのように鳴り響いている。
淳慈は頭だけを起こし、布団の中でブルブル震えながら『アレ』を見ていた。
二本の足は浅黒く、あちこちに、痛々しい擦り傷があり血がこびりついている。
彼は長い海外生活で疲れていたから変なのが見えているのではと思い、半身を起こして改めて見たのだが、やはり『アレ』はいた。
何かをするわけでもなく窓からの弱い光を浴びながら、ただ押し入れの前でじっと立ち尽くしている
「だ、誰なんだ……」
恐怖を何とか振り切りながら、声を出す。
すると再び閃光が部屋の中を照らした。
不思議なことに、その時には、『アレ』の姿はなかった。
耳をつんざくような落雷の音と地響きの中、彼はタオルケットを頭から被り、耳を塞いで芋虫のように丸まっていた。
雨は朝方には弱まり、柔らかい陽光が部屋に射し込んできていた。
淳慈は眠い目を擦りながら立ち上がると、恐る恐る押し入れの前まで行ってみる。
『アレ』の立っていた辺りの畳はジットリと湿っていて、ところどころにどす黒い血がこびりついていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
次に『アレ』が現れたのは、それから10日後の、やはり雨の日だった。
その日の淳慈は掛け持ちしているレストランの皿洗いのバイトを夜中に終えて、アパートには1時頃に着いた。
雨はかなり強まってきており、コンビニで買った500円のビニール傘では、ほとんどその用を足せないくらいの勢いになっていた。
傘を閉じジャンパーに付いた水滴を払うと、アパートの錆び付いた鉄の階段を駆け上がる。
2階の突き当たりにある部屋に行こうと、切れかかる蛍光灯に照らされた薄暗い渡り廊下の先を見たときだ。
怖いけど切ないお話ですね…
シーバはこれで成仏できてたらいいな。
シーバは約束を果たしたのですね。
切ない。
あなたもその石できっと幸せになれますよ。
トヨモトのアレ?
シーバ~~~~~