シーバの石
投稿者:ねこじろう (147)
部屋の入口の前に、また『アレ』は立っていた。
前と同じように薄汚れた大きな白い布を頭から被り、浅黒い足の膝から下の部分を見せている。
ただ一つだけ違っているところがあった。
それは、素足に布製の紐靴を履いていることだ。
それを見た瞬間、彼の脳裏にある記憶が鮮明に甦った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
淳慈は大学の理工学部を卒業後、大手の家電メーカーに就職し営業の仕事をしていたのだが、社内の人間関係と激務に耐えられず、鬱を発症し辞めた。
30歳のときのことだ。
その後自分を変えたいという一心でボランティアグループに所属し、1年間アジアのある紛争地域に行った。
そこはつい最近まで戦争があっていたところで、道路沿いの家の多くは瓦礫になっており、現地の住民は掘っ立て小屋で暮らしていた。
町の外れにある舗装されていない土の上に建てられたプレハブ小屋で他のスタッフと共に暮らしながら、彼は小さな村の人たちの生活再建を手伝っていた。
昼間、淳慈が他のスタッフと一緒に外で作業をしているときは、だいたい村の子供たちが数人一緒にいて遊んでいた。
その中に、【シ-バ】という男の子がいた。
10歳くらいだろうか。ガリガリの体に薄汚れたランニングシャツ、半ズボンという出で立ちをしていて、ボサボサの髪に浅黒い顔で、いつも大きな目をせわしなくキョロキョロさせている。
シーバには両親がおらず、おばあちゃんと一緒にバラックで暮らしていた。
何が楽しいのか、彼は四六時中、淳慈のあとをついてまわっていた。
小屋の裏手で立ち小便する時にまで、ついて来ようとしたこともある。
熱帯雨林気候であるその地域はよく雨が降った。
作業のほとんどが外での肉体労働だったから、雨の日はプレハブ小屋で事務作業をする。
その日も朝から生暖かい雨が降り注いでいた。
淳慈がデスクで書類をまとめている間、シーバは彼の足元で退屈そうに座っていた。
事務作業が一段落ついたとき、彼はシーバに布製の紐靴をプレゼントした。
日本のボランティアグループから送られてきたものだ。
シーバはいつも裸足で歩いていて、ガラスとかを踏んではよくケガをしていたからだ。
彼はとても喜び、興奮した様子で淳慈に何かを早口で言った。
後から傍にいた現地語の分かるスタッフが教えてくれたのだが、お返しに町の北方3㎞くらいの河原で取れる美しい石をプレゼントしたいと言ったそうだ。
なんでも、その石は地元住民たちからは『幸せの石』と呼ばれているそうで、その石を持った者には幸せが訪れるという言い伝えがあるということだった。
その日の夜、外では相変わらず雨が降り続いていた。
時折窓からの閃光が殺風景なプレハブ小屋の中を明るくすると、次の瞬間凄まじい落雷の音が鳴り響き地響きが起こる。
淳慈は他のスタッフとともに板張りの上に並べられたマットレスで眠りについた。
怖いけど切ないお話ですね…
シーバはこれで成仏できてたらいいな。
シーバは約束を果たしたのですね。
切ない。
あなたもその石できっと幸せになれますよ。
トヨモトのアレ?
シーバ~~~~~