もし宜しければ
投稿者:ねこじろう (147)
ピンポーン、、、
突然玄関の呼び鈴が鳴り響いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それは土曜の夜遅くのこと。
ちょうど遅めの夜御飯を終え、ソファーに寝転がりながらテレビを観ていた俺は、
─こんな時間に一体誰なんだ?
と舌打ちしながらリビングのドアを開け、廊下を歩き、玄関ドアの前に立つと、
「はい、どちらさん?」
と金属のドアに向かって、少し面倒くさげに声を出した。
すると、
「夜分遅くにすみません。
私同じ階の住人なんですが、ちょっとよろしいでしょうか?」
と女性の遠慮がちな声がする。
ドアスコープを覗いてみると、暗闇の中にショートの黒髪をした色白の女が俯いて立っているのが見える。
同じ団地の住人ということなので鍵を回し、チェーンは掛けたままギギギとドアを押す。
隙間から女が微かに微笑みながら、
「もし宜しければシチュー要りませんでしょうか?
実は晩御飯にと思って作ったのですが、かなり余ってしまって。
と言う。
歳は40くらいだろうか。
白のブラウスに紺のスカート姿で、両手に鍋を持っている。
かなり痩せていて頬も痩け、なんだか疲れきった様子で右目の端のホクロが印象的だった。
俺は晩御飯を食べたばかりだったので正直にそう言った後、丁重にお断りをした。
言われると女はとても残念そうな顔をしながら俯くと、そのままドアの隙間から消えた。
その後寝床に入った後、暗闇の中、天井を見ながら、
─この階に、あんな女の人いたかなあ
と一人悶々として考えていると、なかなか寝付けなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝の日曜は、敷地内を反響するサイレンの音で目が覚まされた。
驚いて時計を見ると、時刻はもう昼に近い。
ベランダに出て、手摺から階下を見下ろしてみると、エントランス辺りに救急車が停まっており、ちょっとした人だかりが出来ていた。
その時俺は、住人の誰かが病気か何かで運ばれたんだろうとくらい思っただけで、それ以上深くは考えなかった。
そもそも他人の作ったシチュー何か食べたくない。