もし宜しければ
投稿者:ねこじろう (147)
そしてその日の夜、晩御飯を食べていると、
ピンポーン、、、
玄関の呼び鈴が鳴った。
箸を止めリビングを出て、玄関口に行き、
「どちらさんですか?」と尋ねると、
年配の男の声で「夜分すみません。警察の者ですが」という返事。
慌てて鍵を開けてドアを開けると、紺のジャケット姿のくたびれた感じの中年男性が立っている。
男はちらりと黒革の手帳を見せると、おもむろにしゃべりだした。
「すみませんねえ、こんな時間に。
ちょっとお聞きしたいことがありまして。」
訳がわからず頷くと、男は続ける。
「実は今朝、この階に住む独り暮らしの女性が血を吐いて倒れているのを、尋ねてきた息子さんが発見されましてね。
すぐに救急搬送されたのですが間に合わず、お亡くなりになられました。
後ほど食卓テーブルに置かれていたシチューの入った皿を調査したところ、中から高濃度のヒ素が検出されたんです」
サッと背中に冷たい何かが走る。
じわりと生暖かい汗が、額に一筋流れるのを感じた。
警察の男は俺の容貌が急に変貌したのを察知したのか、
「何か心当たりでもあるのですか?」と訝しげに尋ねる。
俺は正直に、昨晩訪ねてきた女の話をした。
その間、男は熱心にメモをとっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
後日再び訪ねてきた警察の男の話によると、
シチューを持っていた女は、俺の部屋以外も数軒他の部屋を訪ねて回っていたらしい。
だが結局受け取る者は誰もおらず、その後女は部屋に戻ると自らシチューを平らげ中毒死したと思われるいうことだった。
【了】
そもそも他人の作ったシチュー何か食べたくない。