見えない赤ん坊
投稿者:林 (4)
リビングなら聞こえないと安心したのか、子ども達は先ほどのように遊び始めた。
一方の夫は顔が真っ青だった。
「ちょっと、大丈夫?」
「あぁ、うん」
「前にも聞こえてたし。赤ちゃん連れて散歩でもしてるんじゃないかな」
「うん」
夫は気もそぞろな返事をするだけだった。
その日から子ども達は書斎に近づかなくなった。
しかし、夫は逆に書斎にこもりがちになってしまった。
仕事を終えて帰宅し、食事と入浴を終えるとすぐに書斎へ。
そして、寝室で眠ることよりも書斎で寝ることの方が多くなっていた。
気になったので訊いてみたが「仕事が忙しくなって来たから家でもやってるんだ」と言われたので、何も言えなかった。
年の瀬になり、子ども達が冬休みに入った。
今年の年末は私の実家で過ごすことになっていたので、帰省の準備をしていた。
すると、夫が「仕事が忙しくて俺は一緒に行けない」と言い出した。
もうその頃には自分勝手な夫に対して文句を言う気にもなれず、私と子どもだけで帰ると言って放っておくことにした。
最近はほとんど書斎にこもりっきりで、ロクに会話もしておらず、子ども達もすっかり変わってしまった夫に怯えていた。
距離を置くにはちょうどいい機会だと、私と子ども達は意気揚々と帰省した。
久しぶりの実家で楽しく過ごし、始業式の前日に帰宅した。
玄関を開けた瞬間に嫌な空気が立ち込めているのがわかった。
もう暗くなっているのに電気も点いていない。
車も靴もあったので、夫はいるようだが、出迎えもなかった。
「パパー?」
長女が恐る恐る声をかけるが返事はない。
「ただいまー!」
私はわざと大声を出し、玄関、廊下、リビングと先々の電気をすべて点けて入った。
部屋の中はガランとしていた。出て行った当時のまま、何一つ変わっていなかった。
キッチンを覗くとゴミもなければ、シンクを使った形跡もなかった。
「パパいないの?」
そう声をかけながら書斎の襖の前に立った。
ボソボソと何か話している声がする。夫はいるようだ。
「パパ、帰ったよ。開けるよ?」
恨んだ相手本人ではなく場所に憑いてるっていうのが、家族を巻き込む形の呪いで怖かった
しかも呪いはまだ続いてそうで、、、
浮気した旦那が全て悪いわな…