真っ暗な部屋の中、椅子に座った夫の背後が見えた。
鼻をつく饐えたような臭いに私は眉をしかめた。
ゴミは散らかっていない。けれど獣がいるような臭いがした。
「……パパ?」
ゆっくりと近づき、夫を覗き込む。
臭いの原因は夫だった。もう何日も入浴していないらしい。
夫は赤ちゃんを抱えるような手つきをして椅子に座っていた。
そして空っぽの腕の中に向かって話しかけていた。
「かわいいね~。ご機嫌だね~」
「……パパ? ねえ、パパってば!」
私の声は聞こえていないようだった。
「ママ?」
「パパはなにしてるの?」
子ども達が顔をしかめながらやって来た。
「あっ! アンタ達は向こうに……」
子どもを遠ざけようとすると夫が振り返った。
「ほ~ら、お姉ちゃん達が来たよ~」
まるで腕の中の赤ちゃんを見せるかのような素振りをして娘達に言った。
「かわいいだろ? 弟だよ~」
「……なに言ってるのパパ」
「……弟なんていないよ?」
子ども達は怯え切って私にしがみついてきた。
「赤ちゃんかわいいよな~」
「赤ちゃんなんていないよ! 変なこと言わないでよ! やめてよ!」
「パパこわい!」
次女が泣き出すと同時に赤ちゃんの泣き声が聞こえて来た。
「大きい声だしたからビックリして泣いちゃっただろ。ダメだぞ、お姉ちゃんなのに」
「もうやめてよ! さっきからなんなの?」
私は夫の肩を強く押し、子ども達から遠ざけた。
「やめろ! なにするんだお前は!」
先ほどとは打って変わった様子に身構えた。
子ども達は私の後ろに回り、服を握りしめていた。
「勝手に人の家に入って来て、誰なんだ!」
「なに言ってんの?」
「お前たちもこっちに来なさい! 知らない人についてったらダメだろ!」
夫が立ち上がって近づこうとすると、子ども達は泣き叫んで後ずさった。
赤ちゃんの泣き声が大きくなったような気がした。
「やだ! こっち来ないで!」
「ママこわいよ!」
「いい加減にしてよ! 頭おかしいんじゃないの!」
「うるさい! さっさと出て行け! 警察呼ぶぞ!」
子ども達に共鳴するように赤ちゃんの泣き声が響き渡る。
サイレンが鳴っているかのようだった
恨んだ相手本人ではなく場所に憑いてるっていうのが、家族を巻き込む形の呪いで怖かった
しかも呪いはまだ続いてそうで、、、
浮気した旦那が全て悪いわな…