マッチングアプリの女
投稿者:ねこじろう (147)
彼女はしばらく俯いていたが、やがて静かに首を横に振ると、コーヒーカップを口元に近づける。
カップを握る手は、まるで老婆のようにか細くて幾重も筋が走っていた。
喫茶店には30分ほどいたのだが、結局最後まで加那さんが口を開くことはなかった。
マッチングアプリで知り合った女性との初デートは、これで終了した。
約1時間だったが、疲れだけが残ったという感じだった。
帰りの地下鉄の座席に座り正面に映る自分の姿を見ながら俺は、あの女性とはもうこれきりだなと思っていた。
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翌日仕事が終わり、マンションに帰るとしばらくして携帯が鳴った。
マッチングアプリのスタッフからだ。
アプリの会員には必ず一人担当のスタッフが付くことになっていて、交際に至るまであれこれアドバイスをしてくれることになっているのだ。
昨日の初デートのことも既に伝えていた。
「お疲れ様で~す、昨日は何か用事とかあったんですか?」
若い女性スタッフが明るい声で尋ねる。
「は?」
意味が分からず聞き返す。
「いえ、お相手の方から貴方が約束の時間になっても来なかったって、怒ってこちらに連絡あったのですが」
「いやいや昨日はちゃんとお昼に約束の場所に行ったし、加那さんも来たよ」
「ええ!本当ですか?
橋本加那さんですよね?23歳で、明るくてお喋りな」
「明るくて?お喋り?
全然違ったけど。
むしろ正反対だったけど。
それで申し訳ないけど、あの人はちょっと無理かな」
俺は正直に言った。
「そうですか、、、
もしよろしかったら、どういう理由でそう感じたか、教えていただけませんか?」
「理由も何も、俺と会ってる間中一言も喋らないし、しかもずっとデカイ麦わら帽子をかぶってたから顔さえも分からなかったし」
「え~!本当ですか?
それ、本当に橋本さんなんですかね?
良かったら外見とか教えていただけませんか?」
怪異もマッチングアプリをやる時代になったのかぁ