監視する人

オートロックの出入りをする住民の声が、遠くから聞こえる事はありますが
私が気配を感じる時は、そんな感じの声はなかったのです。
むしろ声なんて聞こえません。
ただ、人の気配を近くに感じるのです・・・毎日、それも日によっては何度も。

ドアノブやドアに人が触れた時になる、擦れるような小さな音や
ガシャンと、まるで鍵が掛かってドアを開けようとして
扉を押したかのような音がするのです。

そして、気味の悪いことに、その音がする時は
必ず、玄関の直ぐ近くで、人が潜んでいる気配を感じるのです。
・・・思い返しても、あの気持ち悪さは、恐怖でしかありません。

誰かが、ドアスコープから家の中を覗こうとしている？
それとも入って来ようとしている？
もしかしたら玄関に耳を当てて、中の音を聞いている？と、
嫌な想像ばかりが膨らみ、恐怖も大きくなっていきました。

ですが、もし私が犯人を見ようとドアスコープを覗いて
その時、本当に相手がコチラを覗いていたら・・・と
その恐怖の方が勝ってしまい、犯人を特定しようと思えず
自意識過剰だと思う事で気付かなかったふりを押し通しました。

それが、横さんの行動をエスカレートさせたのでしょうか。

少しずつ、我が家の玄関前が汚くなっている事が増えたのです。

飴の殻が1つだけ落ちていたり、掲示物を貼る画鋲が1つ落ちていたり
何かを食べたような跡が残っている日もありました。

雨の日は、私しか住んでいないのに
見に覚えのない水に塗れた足跡が玄関前に残っていたり
湿った手でドアを触ったような手跡が残っていることありました。

オートロックの為、配達員などは、対象の住民の部屋番号で呼び鈴を鳴らし
その家の住民が解除しなければ、基本的に家の玄関の前まで来る事も
ましてや、マンション内のインターホンやドアを触る事も普通はあり得ません。

やはり、誰かがこちらの様子を伺おうとしているのだと認めざる得ませんでした。
その時は、まだ横さんが犯人だと知りませんでしたが、その頻度から外部の人ではなく
住民だと確信していた為、引越し先を探しながら、息を殺すように生活していました。