監視する人

家に居る時はチェーンロックでも施錠し、ドアスコープはマスキングテープを何重にも貼り
家の中の光すら通さないようにしました。
玄関の扉越しの盗み聞きは防げない為、とにかくリビングに続くドアを閉め
少しでも音漏れを防止するよう心掛けて生活しました。

あの頃は、音を立てる事に強迫観念のようなものすら感じるほど、追い詰められていました。

そんな時です。
私は引越し先の下見の為、珍しく日中に外出し、夕方前には帰宅しました。
オートロックを解錠しようと、鞄から鍵を取り出し顔を上げた時
視界の端で、横さんが家を出た後ろ姿が一瞬見えたのです。
そして、直ぐに違和感と事実に気付きました。

横さんの家はオートロックのすぐ隣にあるのです。
何故後ろ姿が見えたのか、何故一瞬で視界から消えたのか。
横さんが居た場所は、私の家の玄関の近く。
向かった先は私の家の玄関。

本来なら、横さんの家を施錠するならAさんの正面側が見えるはず。
自宅に入るなら、玄関からあんなに離れた場所で背中が見えるはずない。
ましてや、外出する予定ならオートロックに向かってくるはず。
意思を持って我が家に向かったのだと瞬時に把握し

あぁ・・・覗き魔は横さんなのだ、と理解しました。

横さんが私の留守に気付いて戻ってくる前に、急いで一旦マンションから離れ

終電ギリギリにこっそりと帰宅しました。

向かいの家の住民が覗き魔だと思うと、迂闊に家の外に出る事も怖く、
しかし家の中に籠るのも、監視されているようで気味が悪く
下見した建物の賃貸契約を進め、早くここを出るのだと
それだけを考えて頑張ろうと、恐怖に潰されないように必死でした。

引越しまでの間、何度か横さんと鉢合わせした事がありますが
私の引越しがバレないよう、また横さんが覗き魔だと気付いた事がバレないよう
普段と変わらない様子を装いながら、内心は横さんから逃げたくてしかたなかったです。

あんな普通の表情と態度で、私には一切興味がないような態度で
あの人は毎日、私の生活を覗こうと、聞こうとしてたのかと思うと
生きている人間が一番怖いというのが、あながち間違いないと感じました。