行方不明になった友人の話

「マジでこの先に家なんてあんのかよ」

草木が生い茂った山道を歩いている中、Ｂが草を手で払い除けながら言ってくる。
最早道なのか、獣道なのか見分けがつかない。
もしここが公道もしくは私道だとしても、もう何年何十年単位で人の出入りが無いと想像できる。
正直な所、俺にもこんな所にＡが撮影した平屋がある確証が持てなかった。
ぶっちゃけ、平屋の画像に記された住所通りにやってきただけなのだから、行ってみない事には何も分からないのだ。

それでも青臭い芳烈な草の匂いに酔いながらも進んでいれば、やがて整地された痕跡のある広っぱに飛び出した。
漸くまともな道に出たと感慨深く顔を上げれば、草木の奥に家の輪郭を捉える事が出来た。

「お！あれじゃね」

「ぽいな」

最寄り駅から早四十分。
俺達は漸く画像に写された平屋に到着した。

近くに寄って画像と見比べてみれば、随分と雑草の成長具合に差があるものだ。
Ａが撮影したのは恐らく夏場だったのか、現物より鬱蒼と茂って膝丈まで侵食されているが、現在では殆ど誤差の範疇かもしれないが、夏が過ぎた事で草は枯れ始めており、背丈が１０センチは下がっている様に見える。

平屋の正面に移動すれば、塀の横の住所プレートと玄関引き戸横の赤い郵便受けが一致したので、俺とＢは思わずハイタッチを交わした。

「しっかしボロいなぁ。本当に誰も住んでないのかな？」

「チャイム鳴らしてみるか？てか、電気メーター見れば早いんじゃね」

家の外観は昭和初期に建てられた様な平屋。
そんな老練の家屋を前にＢが居住状況を心配するが、俺はチャイムを鳴らせば手っ取り早く留守を確認できると話す。

殆どブザーに近い古いボタン式の呼び鈴だが、風化して粉まみれのボタンを押した所で当然だが反応は無かった。

続けて敷地内の少し裏手に入り込んで電気メーターを探し当てるが、やはり通電されていない様に見える。
念の為、水道も確かめてみようと思ったのだが、敷地の殆どがネギ畑みたいになっているので見つける事は出来なかった。

再び玄関前に戻って引き戸に手をかけると、信じられないほど簡単に開いたので面食らってしまったが、すりガラス越しから既に見えていた深淵の様な暗闇が続く様子に息を呑む。

「おお…、開いたわ」

「誰も管理してねえんじゃねえの？」

最近では家主の死去による空き家の放置が問題視されているが、ここもその一つなのかもしれない。
引き戸の先は昔ながらの三和土が広がり、陰鬱とした暗がりと黄ばんだ砂壁に挟まれていた。
その奥に廊下が延びているが昼間とは思えないほど暗くどんよりとしている。

思わず緊張感から生唾を呑み込むが、いつまでもこうして攻めあぐねている訳にはいかない。
殆ど地べたと変わらない床の汚れ具合を確認して、俺達は靴を履いたまま敷居を跨ぎ、何十年分の空気が濃縮された酸っぱさを醸す廊下へ上がり込むと、「ギギギ」と今にも踏み抜きそうな軋みを立てながら進んでいく。
廊下を踏み歩けば軋みと混ざってカサカサと虫が蠢く気配を感じたが、見えないゴキブリやムカデを想像して総毛立つ。