行方不明になった友人の話
投稿者:七色 (4)
ただ、通知が来た今ならAと連絡が取れるのではと思い到り、俺は「この動画何?」と当たり障りのない感想を打ち込んだ。
しかし、一向にAから既読がつく事は無かった。
翌日、大学で友人達にAからラインが来た事を伝えると、他の友人は「マジ?」と身に覚えが無い様子だったので、どうやら俺にだけ送られてきた事が判明した。
内心、Aにとって俺が一番の友達だったのか、なんて気恥ずかしい事を考えたが、それと同時にこの動画に込められたメッセージが分からずにヤキモキしたのを覚えている。
Aからのリアクションが無いまま数日が過ぎた頃、再びAから動画が送られてきた。
相変わらず本文は綴られていないが、今度はサムネイルの段階から例の部屋が映し出されていたので、中身を何となくだが想像できた。
だが、いざ再生すれば、俺の考えが如何に浅かったのかを思い知らされる事になる。
全体の尺は約72秒。
冒頭の20秒ほどは殆ど前回の動画と同じで、Aが固定されたスマホに向かってブツブツ何かを唱えている様子が第三者視点で映っているだけだった。
だが、20秒を過ぎた辺りから、不意にAの視線が初めてカメラ目線に向けられたかと思えば、途端にAの表情が曇ったのだ。
そして、開いた口を小刻みに震わせて「あわわわわわ」と漫画の様に狼狽え始める。
最初、ちょっと面白かったので「ふふっ」と鼻で笑ってしまったが、Aの表情が急激に青ざめていくのを目の当たりにして少し動悸が早くなった気がした。
暫く見続けていれば、カメラに目線を向けたまま硬直するAが、瞬間的に飛び退いた後、畳を蹴る様に後退るとそのまま襖に背中をぶつける。
まるで得体の知れない何かから逃げ出す様な、そんな怯えた動きだった。
カメラから少し遠ざかったせいで表情を読み取る事は出来なくなったが、Aは腕で自分の視界を遮る様に隠して身を丸くする。
その様子は恐ろしいものから距離を取って怯える仕草そのもので、俺はAが何にこんなに怯えているのか少し興味が湧くと、動画の先が気になりスマホ画面を食い入る様に覗き込んだ。
そして55秒を過ぎたあたりでカメラが揺れ動くと、まるで人が段差を飛び降りた様に画面がガクンガクン上下した後、今まで俯瞰視点だったカメラがAと同じ目線の高さに移動する。
それから動画は隅で身を丸くしたAへとゆっくり近づいていく。
俺は今まで定点カメラだとばかり思っていたが、どうやら勘違いだったようだ。
カメラが動くという事は、Aの他にこの動画を撮影している人物が同伴している事になる。
Aが廃墟巡りに友人を連れていったなんて話聞いたことがないが、もしかしたらこの日は友人同伴で泊まり込んでいたのかもしれないと考える。
廃墟とは言え、以前まで人が住んでいた場所に一人で寝泊まりするのは誰でも怖いものだし、Aが誰かを連れていても不思議ではない。
それにしては、Aのこの怯え切った表情はどういう事なのだろうか、とは考えていたが。
しかし、俺が訝しながら視聴していると、70秒を過ぎたあたりで突然Aが『あああああああああああ』と絶叫した所で動画が終わる。
生憎とマナーモードを解除していたせいでAの絶叫は音割れして俺の聴覚を通り抜け、猫の様に体全体が飛び跳ねるほど驚いた。
思わずスマホを投げ飛ばしそうになったが、幸い、手から滑り落ちただけにとどまり、床に軽く衝突しただけで済んだ。
「びびったー……」
未だ動悸が止まない胸を摩りながらも、俺はスマホを拾い上げてもう一度同じシーンをミュートで再生する。
Aの絶叫が鳴り終えるとほぼ同時に動画は終わっていたので、その先の映像は無い。
Aがこの後どうなったのか分からないまま、俺はAの身に何かが起きたのではと不安に駆られるが、連絡がつかない今それを確かめる術が無いと分かればどうしたものかと頭を悩ませた。
読み応えあって面白かったです。
そういえば廃墟系のYouTuberで実際に行方不明になった人いませんでしたっけ…
心情の表現や状況を表す言葉が秀逸で、洒落怖ばりに鬼気迫る恐怖が凄く伝わりました。廃墟系YouTuberの方々にも周知させたいお話ですね。
長編なのに読んでいてしんどくない。細部の描写が凄いです。風化して粉まみれのボタンで感動しました、これは知らないと書けない…
その廃墟、第二の犠牲者が出ない事を願うばかりです。
恐ろしい体験でしたね。
気を強く持たないと。
その時の様子が鮮明に想像できます。細かい描写で分かりやすい。
絶叫しそうになった
めちゃくちゃ面白い
映像化してほしいくらい
凄く怖いかったです。この話は良かった。
いつか読んでる中でダントツ怖い。
ほんまにこえぇわこれ
ここ数年で1番怖かったかもしれない
文体に独特の書き癖があってときどき気にはなるが、内容は怖かった。
例のミイラ男がAなのかな?
とにかく読ませる怪談。今時パスワードや指紋認証ロックしていないAのガバガバさぶりはアレだが
怖すぎる…家の玄関が誰もいないのに明かりがついたことあるけれど
それ以上怖い…
今まで読んだ中で1番怖かったかも
若干最後の方に蛇足感じたけど面白かったわ。ありがとう。
低学歴ワイ、意味を知らない言葉複数あり
役所で名前が記録されていればおおよその事は分かるはずだよ、日本人なら
怖いねえ
大丈夫。ずっと見ているよ
マジで怖かった。傑作
あの頭部はAのものではないの?
Aと同じセリフを履いたよね。
そーやって呪いが繰り返される展開を想像した俺はこーゆーの身過ぎかね
Aは怪異から逃げ続けているから会えないのではないか
傑作。昼に出る怪異はガチ勢というが、まさにという感じ。
ビデオ動画、LINE、天袋に襖といった、正統ホラーの技巧にワクワクさせられつつ、2方面戦線からの合体という驚きもあって。
とても面白かった。
あかんめっちゃこわい
映像化してほしい