ソロキャンプ
投稿者:ねこじろう (147)
「結局は、それきりだった、、」
店主はそう言うと、がっくりと項垂れた。
似ている、、、
私は思った。
私は三年前に消えた自分の息子のことを、店主に話した。
店主はただ黙って聞いていたのだが、やがて今度はこんなことを話し始めた。
「もう何年も前に亡くなったんだが、うちの店の裏手にある祠で一人で暮らしていたばあ様がこんなことを話してくれた」
「それはまだ侍がいた頃のこと。
この辺りの集落に、色白の美しい女が息子と二人で暮らしていたそうだ。
女は息子をそれはそれは可愛がっていたそうだ。
だがある日のこと、息子が川で溺れて死んでしまう
女は嘆き悲しみ、毎日毎日川辺に立ち、息子の名前を呼んでいたそうだ。
そして、ある日のこと、、、
とうとう女は白い大蛇に化身し、川の中に消えてしまったという。
それからというもの、川で遊んでいる男の子が神隠しに合うというようなことが起こるようになったそうだ。
村の者たちは白蛇の呪いと言って、恐れおののいていたということだ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
いつもの川辺にテントを建て、岩に腰掛けて缶ビールを開けたとき、既に太陽は西の方に傾き始めていて、川面や辺りは朱色に染まっていた。
もはや聞こえてくるのは、清々しい川の音と、耳に染み込むような蜩の声だけだ。
ビールを一気に飲み干すと、さっき聞いた店主の話を思い返してみた。
─店主と私の息子も、白蛇に連れていかれたのだろうか、、、
いや、あれは単なる言い伝えで、令和の時代に、そんなことがあるはずがない。
テントの前でバーベキューセットを組み立て、枯木を拾ってきて火を起こすと、準備してきた肉を焼いて、ビールを飲みながら舌鼓をうつ。
その後は、いつもの儀式だ。
貴司が好きだった線香花火をリュックから出してきて岩に腰掛けると、ライターで火を付ける。
暗闇の中、パチパチと飛び散る火の粉をただじっと見つめていると、楽しかったあの夏の日のことが、ありありと浮かんできた。
ちょうどその時だ。
「パパ、、」
どこからか子供の声が聞こえてきた。
ドキリとして顔を上げると、「貴司!貴司なのか?」と言いながら、キョロキョロと辺りを見回す
立ち上がり暗闇に向かって、もう一度声をかけたが、やはり返事はなかった、、、
私はがっくりと肩を落とすと、辺りを片付けて火を消すとテントの中に入り、ランプを消して横になった。
ちょっと切なく、しかし面白かったです