ソロキャンプ
投稿者:ねこじろう (147)
それからは、ことあるごとに妻は私を責めた。
あのとき、あなたが息子に付き添ってくれていたら、こんなことにはならなかった。
貴司はあなたに殺されたのと同じだ、と。
以前から価値観の違いは感じていたのだが、貴司という存在が私と妻を何とか繋げていたと思う。
それで息子の失踪から1年経ったころ、私たち夫婦は他人同士になった。
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昼御飯を食べていなかったので、私は山裾にあるさびれたドライブインに車を停めた。
道路沿いにある縦書きの錆びたブリキの看板には、「ドライブイン ひろし」と書かれている。
そこそこ広い駐車場は、がらんとしていて、なんだかうら寂しい感じだ。
プレハブを改造したような年季の入った建物。
入口横のショーケースにはメニューのサンプルが並んでいるのだが、ケースのガラスはかなり汚れており、金額や料理名がはっきり見えなかった。
店内に入ると案の定、客は誰もいない。
四つほど安っぽいテーブルがあり、奥にはカウンターがあった。
私はカウンターの真ん中辺りに座る。
しばらくするとカウンター奥の厨房から、くたびれた初老の男がぬっと現れた。
角刈り頭に無精髭 でっぷりと肥えた体躯の上はランニングシャツ一枚だけで、下は黒のジャージだ
無言で私の前に水を置く。
ラーメンを注文すると、また無言のまま厨房へと消えた。
インスタントに毛が生えたようなラーメンを食べ終えて何気に周囲を眺めていると、
カウンター隅の方に、額に入れられた一枚の写真が飾ってあるのに気付いた。
立ち上がって、近づいて見てみる。
そこには店主と思われる男性が、小学生くらいの男の子と一緒に写っていた。
この近くの川だろうか。
大きな岩の上に二人並び、仲良く立っている。
「息子の博司だ」
驚いて振り向くと、いつの間にか後ろに店主が立っている。
「釣りの好きな子だった よく一緒に近くの川に行ったもんだ」
「だった?」
少し思わせ振りな言い方をしたので聞き返すと、店主は丸椅子に腰掛けて続けた。
「今から30年も前のことだ。
夏休みに俺は博司とそこの川に釣りに行った。
博司が釣りをしている間、俺は木陰でタバコを吸いながら缶ビールを飲んでいた。
それからどれくらい経ったくらいか。
夕暮れの陽光で川面が染まりだすころだった。
そろそろ帰るかと博司に声をかけたのだが、返事がない。
辺りを探すが見当たらない」
ちょっと切なく、しかし面白かったです