ソロキャンプ
投稿者:ねこじろう (147)
暗闇の中、、、
ただ聞こえてくるのはドウドウという川の流れる音と、時折奇妙な声で鳴く鳥の声くらいだ。
それからどれくらいの時が過ぎただろう。
ようやく微睡みの泉に意識が浸かっていこうとしていたとき、川の方からバシャ、バシャという水の跳ねる音が聞こえてきた。
─魚でも跳ねているのかな、、、
始めのうちはそう思った。
だが、音はなかなか止まない。
私は起き上がると、テントの入口の隙間から、そっと外を覗いてみる。
次の瞬間、私の心臓は激しく鼓動を打ち始めた。
川の真ん中辺りに、誰かいる、、
それは、腰から上だけを水面に出した女。
月明かりの下、、、
透き通るような白い肌をした上半身裸の女が身体を斜めに傾け、両手で黒く長い髪を束ねていた。
毛先からは、ポタポタと水滴が滴り落ちている。
月光に照らされたその横顔は青白くて、神々しいくらいの美しさだ。
私は磁力に引っ張られるようにテントから外に出ると、ふらふらと川岸まで歩いた。
女は私に気付いたのか、ゆっくりとその身を水に沈めていき、顔だけを水面に出すと、静かに前方に進み出した。
するとその後方を巨大な丸太のような白く長い体躯が、水面をうねうねと滑るように付き従い進んでいく。
目前を通り過ぎていくテカテカと不気味に白く光る胴体を見たとき、私は思わず「あっ!」と声を出した。
鱗に守られた白く柔らかそうな胴体のあちこちには、人の顔らしきものが張り付いている。
それも一つや二つではない。
無数の顔がまるで電車の窓のように、どこまでも並んでいた。
それらはよく見ると全て、まだ幼い少年の顔だ。
そしてその中に決して忘れることのない顔があった。
「貴司!」
私は裸足のまま川に入りこみ、どんどん進んでいく白く長い体躯の後を追った。
よろめきびしょ濡れになりながら、必死に追ったのだが、それはあっという間に上流の彼方へと進んで行き、漆黒の闇の中に溶け込んでいった。
私は彼方に見える山の連なりを眺めながら、いつまでもただ呆然と立ち尽くしていた。
【了】
ちょっと切なく、しかし面白かったです