そして、『はぁ……はぁ……』と僕の耳に何者かが吐く吐息の温度が伝わってきました。
『ええなぁ……ええなぁ……』
今度は確実に耳元ではっきりと聞こえます。
悪意を込めた様にねっとりと陰湿に余韻を残して、何者かはニタニタと笑っている様に思えました。
ズ……
何かが僕の頭上を横切ると、僕が体を向けている方の枕元が沈んだ感じがしたので薄目を開ければ、そいつの腕が延びて手を付いているのが見えました。
夜光で微かに視認できるそいつの腕は、細く骨と皮だけで成り立ったゴボウのようで、僕は息を殺すのに必死になりながら「誰か!誰か!」と親でも誰でもいいので助けに来てくれないだろうかと切に願っていました。
しかし、願いは届くことはありません。
僕の必死な願いを嘲笑うかの様にして、不意に視界の上から乾燥させたモズクと見紛う髪の毛が垂れてきたかと思えば、皺だらけでヨボヨボの老婆らしき顔がズイッと覗き込んできたのです。
老婆の顔は腕同様に脂肪が無い皮を絞った様な質感でした。
そして、老婆は『あばばばばばばばば』と黒ずんだ歯を覗かせながら口を閉じたり開いたりして笑い飛ばすのです。
僕は一瞬心臓が口から飛び出たと錯覚するほど驚愕しますが、そのまま意識を失いました。
恐らく数時間後、僕は母親に強く揺り起こされて目を覚ましました。
母は開口一番「どうしたの!」とまくし立て、父は灯かりを点けて「大丈夫か?」と僕を見下ろしていました。
僕は訳が分からないと言った面持ちで両親の顔を見ますが、母は僕が「どしたの?」と問えば強く抱きしめるだけでした。
少し苦しい母の抱擁から抜け出すと、両親は僕が気を失った後の事を話してくれました。
何でも、大人達がリビングで酒盛りをしていると突然客間から「きゃあああ」だとか「わあああああ」と言った僕を含めた子供達全員の悲鳴が上がったのです。
すぐに泥棒の類を予想して男衆がそれぞれの部屋に駆け込んでいきましたが、そこには泥棒はおろか子供以外に誰も居ない闇夜が広がるだけでした。
ただ、電気を点ければ布団に寝ながらにして苦しみもがく子供の姿があり、皆一様に『あばばばば』と溺れる様な呻き声を口ずさんでいたと言います。
因みに僕はおねしょをしていた様ですぐに父に着替えてくる様に言われました。
僕はその話を聞いてから少しして、漸く気を失う前、老婆の様な奴が部屋にやってきた事を思い出し、すぐさまその事を両親に話しました。
しかし、外部の者が侵入した痕跡が無いせいか、両親は僕が証言しても「怖い夢でも見たのか?」と信じようとしませんでした。
ただ、AやCの親がやってくると、それぞれが僕が証言した様に「子供が老婆がやってくる夢を見たって言うんだ」と話すと、両親の表情が曇ります。
反対に子供が悪い夢を見ただけの騒ぎだと思っていたAとCの親は、子供達全員が同じ「老婆」の話をし、同じ時に「悲鳴」を上げた事を裏付けると僕の両親の様に怪訝な表情を浮かべていました。
そして、リビングにAが居るのか、Aの震える様な声色が聞こえてきます。
恐らく祖父と喋っているのか、祖父は「いいけえ、全部言いんさい」と若干怒気を孕んだ声で凄んでいました。
「……今日、みんなで山に行って……それで、なんか変な人っぽい影に追われて……」
半泣きで渋々語っている様子が容易に想像できましたが、Aは祖父に叱られながらも今日の体験談を拙い語彙のまま洗いざらい話していました。
一方で、Aと祖父の会話を盗み聞きしながら父は「本当か?」と話の途切れ途切れで僕にいちいち確認を取ってきたので、僕も一定間隔でただ頷くだけの機械の様に父の確認作業に付き合っていました。
その後、僕ら子供達は仏間に集められて一緒に眠る事になりました。
そん時、A達に「みんなもお婆ちゃんの夢みたの?」と聞けば、Aは「お前もか?」と真っ青な顔をし、BとCはさんざん泣いた後にも関わらずしゃっくりを交えてヒクヒクと泣いていました。
























ちょっと長かったけど読み応えあって面白かったです
埼玉に姥捨山あるって話を思い出した
夢に出そう
あばばばばばばばば
長野県に姨捨って地名あるよ…
ググってみてください
風邪引いたときになんとなく読んだんだけど強すぎて風邪なおった
ググったら姥捨山城跡が栃木にあった件(怖い)