顔が見えない女
投稿者:ぴ (414)
私がまだ20代だった頃、彼の家に初めてお泊りに行った日のことでした。
昔のアルバムみたいなものが彼の机の上に置いてあり、なんとなく見始めたのです。
若き日の彼がいて、最初はすごく楽しく見ていました。
でも次第にあることに気づき、それが気になってしょうがなかったです。
彼のアルバムの写真には、どのページを開いても同じ人が写っているのです。
その人はいつも同じように、彼の後方に写り込んでいました。
どの写真も髪型は一緒なのに顔はぼんやりとしか写っておらず、はっきりと見えません。
顔が見えないようにわざと写っているようにも見えました。
どの写真にもいるので、だんだんその存在が怖くなってきたのです。
そんなとき、やっと部屋にお酒を取りに行った彼が戻ってきたのです。
私は開口一番に、「このいつも写ってる人誰?」と聞きました。
「何が~?」と片手に酎ハイを持って戻ってきた彼はその酎ハイをいきなり落としました。
そして慌てて私からアルバムを取り上げたのです。
「どこからこれ持ってきた?」と真剣な顔で尋ねられました。
意味が分からず、「いや、ここにあったけど」と言うと、彼は心底驚いているように見えました。
アルバムを隠すようにして彼は押し入れに入れました。
そして、まるで何もなかったように、私に話しかけようとするのですが、私はアルバムの顔が見えない女が気になって仕方なかったです。
彼に押し切られるようにして、いちゃいちゃしていたとき、急に押し入れで変な音がしました。
それはまるで何かが軋むような音でした。
その音に彼はあからさまにびくりとしたのです。
私と彼はしばらくお互いを見つめあい、彼がそっと押し入れの戸を開けました。
ゴトっと何か倒れる音がして、私と彼は開いた押し入れを見ました。
そしたら目が合ったのです。
それは人の顔で、押し入れからにゅっと出てきた腕が彼の服を掴んで、そのまま押し入れに引っ張り込みました。
抵抗する彼を私は助けたかったけど、あまりに怖くて動けませんでした。
そして抵抗も叶わず、彼は押し入れに引きずられて戸が閉まったのです。
しばらくばたばた音がして、急にシーンと音がしなくなりました。
あまりのことに私はへたり込み、腰を抜かしたようにその場に留まりました。
しばらく待っていたら押入れが勝手に開き始めたのです。
怖くて怖くて、泣きそうになりながらも動けませんでした。
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