身投げの名所
投稿者:窓際族 (47)
これはとある離島に伝わるお話です。昔々、その離島は流刑地の1つでした。ざっくり言えば悪いことをした人やお上に逆らった人たちがここに移送されてきたわけです。しかし、その島に住んでいたのは今でいう犯罪者だけではなく、元々の島の住民もいました。そして流刑にされた人は特に牢屋に入るというわけでもなく、島から出なければわりと普通に暮らすことができたそうです。
とはいえ、農地に乏しい島での暮らしは豊かとは言えませんでした。流刑にされた人はもちろん、罪なき元々の住人でさえ、飢えることは珍しいことではありませんでした。今の人からすればもっと開墾すればいいじゃんだとか周りは海なんだから魚をたくさん捕ればいいじゃんだとか思うかもしれませんが、昔の生活ではそうはいきません。技術も道具も未発達でしたから、頑張っても頑張っても確保できる食糧は多くないですし、輸送網も未発達なので外から物資が入ってくることも稀でした。
なので島から逃げ出そうという者も何人かはいたそうです。また、崖から身投げをした者もいたのだとか。そして身投げが多く出たという岬が今も残っています。今では、そこには特に何もありません。集落にはそれなりに近い場所ですが、今では過疎化などにより周辺を管理する人もおらず、また訪ねる人もいないので雑草が生え放題になっています。しかし、昔からの住人によれば夏の夜にこの岬に行くと、昔の人の幽霊が出るという話があったとのこと。またかつての大人たちは「足を取られるから絶対に行くな」と言っていたそうです。
今ではこの島には水も電気もありますし、何ならインターネットすらあります。また輸送網の発達により食料品はもちろん、電化製品や建設資材など生活に必要なあらゆるものを十分に買うことができます。しかしこの話を教えてくれた人は「昔、この島にはこういう苦しい歴史があったのだということを忘れてはならない」と言っていました。そんな歴史も、過疎化と共に消えつつあるのだなと思うとちょっと寂しい気分になります。
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