田所さま

逃してくださいってのは・・・

何もかもがわからなかった

俺は勇気を振り絞って田所さんに近づいていった

このまま自分の中にあるもやもやを抱えたまま、帰れそうになかった

俺は田所さんに話しかけてみた

「あの・・・田所さん。なんか困っているの？」

田所さんは俺の方に顔を向けて、じっと見つめてきた
何も喋らない

あーうーとも言わない
ただ黙ってこっちを見てる

「ねぇ。ずっと見られているって何？　いつもふらふら歩き回って、自由に見えるけどそうじゃない・・・」

「あら。○○君。どうしたの？」

突然、後ろから声がした
驚いて振り向くと田所さんの母親がいた

いつもと変わらない笑顔だった

「うちの子とお話をしてくれてたの？　ありがとう。でも、そろそろ帰らないといけない時間なの。ごめんなさいね」

田所さんの母親は、彼の手を引いていって、その場を去って行った

俺は二人がいなくなってからも、しばらくその場から動けなかった

いつの間に現れたんだ？

俺は怖くて仕方なかった

さっきまで近くに誰もいなかったのは確かだ
いきなり後ろに現れた

ずっと見られている

田所さんのさっきの声が頭に浮かんだ

それは自分の母親のことなのだろうか

逃してください
そうも言っていた

それは母親から？

でも、何故、逃げる必要がある？
母親の世話がないと生きていけなさそうだけど