田所さま

いや、でも、あのしっかりとした声は・・

もしかしたら、本当は田所さんはちゃんと話せるのか？

俺の頭は完全に混乱していた
辺りが真っ暗になるまで、俺はその場で固まっていた

その後、田所さんが一人で出歩くことがなくなった
外で見かけることが極端に少なくなり、見かけた時は必ず母親が一緒だった

俺はこうなったのは自分のせいなのかもと思った
俺が余計なことをしたから、母親の監視が厳しくなったんだと

でも、何故、田所さんを監視しなくちゃいけないのかわからなかった

一人にしていると危なっかしいから？

いや、そんなのはずっと前からそうだった

監視が厳しくなったのは、俺が田所さんの助けの声に気付いてからだ

何があるっていうのか

俺はお母さんに聞いてみた

なんか田所さんが一人で外に出なくなったよねって

そしたら、そんなのどうでもいいことでしょって早々に話を切り上げられた

お父さんに聞いてみても似たような反応だった

俺は隣の家の大人にも聞いてみたが、やはり同じだった
何か異様なほどに田所さんの話をしないのだ

思えば、それは昔からだった

これまでは不幸な事故で今の状態になったって話だから、可哀想という感情からあまり田所さんの話をしないのかなって思っていたけど、どうもそういうものじゃなさそうだということに今更ながら気が付いた

それから少しして、田所さんがまったく外で見られなくなった
それと同時に村全体が慌ただしくなった
大人たちは何かの準備をしているようだった

俺は聞いてみたが完全に無視された

そして、それから数日後、田所さんは亡くなった

俺は葬式に呼ばれた
葬式には街中の人が集まっていて、かなり大規模だった

村長さんだけでなく、隣村の村長さんまでもきていた

どこにそんなお金があったのだろう、ってくらいの規模だった