どろぼう観音
投稿者:ネグホ (3)
これは、80代の母が子供の頃に祖母から聞いたという話です。
昭和の初めの頃、今から90年ぐらい前の話になるでしょうか。
祖母の家は埼玉県の中央部にある上尾市という所にあり、先祖代々農家を営んでいました。
隣近所もほとんどが農家で、畑と林に囲まれたのどかな田舎の村なのです。
その隣町、祖母の家からは歩いて15分くらいのところに、こじんまりとした観音堂があるのですが、そのご本尊の観音様がこの話の主役になります。
この観音堂では、地域のお祭りやお彼岸、お盆の法事などが行われ、村の人たちのちょっとしたコミュニティの場になっていました。
境内はそんなに広くはなく、ご本尊の観音様の安置された小さな本堂に墓地があり、普段の日は子供たちの遊び場になっているような、のんびりとのどかな場所です。
私も子供の頃、お盆に祖母の家に遊びに行った時に、その観音堂へ施餓鬼に行ったり、いとこたちと境内で花火をしたり、虫取りをしたりして遊んだ懐かしい思い出があります。
檀家を持っているような寺院ではなく、お坊様は常駐しておらず、行事や法事の時に本家の寺院から来ていたような記憶がありますが、なんせ子どもの頃のことで、そこら辺は曖昧です。
その観音堂のご本尊の観音様は、地元の人から、なぜか「どろぼう観音」と呼ばれているそうなのです。
その頃、明治時代から続く政府によるブラジル移民推進政策が行われていました。
困窮した農家を救うため、全国から広くブラジル移住をする人たちを集めていたのです。
政府から移住支度金を補助されたこともあり、当時はかなりの数の日本人がブラジルへ移住したそうです。
祖母の家の近所でも、それにのったいくつかの家族が揃ってブラジルへ移民として行くことになりました。
田舎のことで、地元のみんなはそれを聞いて最初は驚いて引き止めたりもしたそうですが、最後には納得し、元気で頑張るように送別会を開いてブラジルへ向かう家族を激励したそうです。
ブラジルに旅立つ少し前に、その代表者の男性が観音堂のお坊様を訪ねてきました。
お坊様に今までお世話になったお礼と出発の報告をした後に、折り入って頼みがあると切り出しました。
「こちらのご本尊の観音様をブラジルへ一緒に連れて行きたい。小さいお堂に安置して移民たちの心のよりどころにしたい。」と頼んできたのです。
お坊様は「気持ちはわかるけれど、この観音様は地元の人たちの信仰も篤いし、何よりここのご本尊様だから申し訳ないけれどそれはできないよ」と言って断りました。
男性は、がっかりしながらも納得して帰っていったそうです。
ところが、やはりあきらめきれなかったのでしょう。
男性は、一緒に行く仲間と夜にこっそり本堂に忍び込み、あろうことか観音様を持ち出してブラジルへ連れて行ってしまったのです。
観音様のいなくなった本堂。
お坊さんや地元の人たちは、観音様のいなくなった本堂を見て驚き、悲しみましたが、まあそれも致し方ない、ブラジルへ行ったみんなを見守って下されば・・と温かい気持ちでいたそうです。
季節ごとのお祭りや法事は、観音様不在のまま、いつもどおり行われていました。
それから何年か経った頃、観音堂を1人の男性が訪ねてきました。
男性はやけに大きな包みを背負っています。
なんと、それはブラジルへ行く前にお寺に挨拶に来たあの男性だったのです。
男性はげっそりとやつれて、今にも倒れそうな様子だったそうです。
お坊様は、男性をすぐ本堂に招き入れ話を聞きました。
男性は背中の包みを降ろし荷をほどくと、それはブラジルへ連れて行った観音様、ここのご本尊様だったのです。
そして、男性は申し訳なかったと涙ながらに謝り、理由を話しはじめました。
私の親族にもブラジルに渡った人がいるのでなんとなく親近感わきました
子供に読ませたくなるような不思議な話ですね
面白かったです
いい話
行ってらっしゃい
昔話みたいで良き
ブラジルから戻ってきた観音様…スケールのでかい話で面白い
実際に見てみたいな
NHKとかで追ってほしい
こういう話もっと読みたいです
怖いは怖いけどけどちょっと童話のような感じがある
どろぼうという単語だけで判断しそうでしたが、心が暖かくなりました。
わたしもそんな温かい心を持った人になりたいな。
良い話だぁ〜
観音様もホームシックになるんだ。かわいい。